なぜ働き方改革はうまく進まないのか:働き手の心理から探る(4/5 ページ)
国を挙げて日本が取り組んでいる働き方改革。しかし、8割を超えるビジネスパーソンが働き方改革を実感していないというデータがある。これが日本の働き方改革の現状ではないだろうか。では、なぜ働き方改革はうまく進まないのか?
変革の実現に向けて意識したい3つの心理
(1)危機意識を高める
ジョン・P・コッター教授の著書「企業変革力」は、リーダーシップ論の名著であり個人的にも座右の書です。コッター教授は同書において、大規模な変革を実現するためには8つのプロセスが有効であると述べています。
大規模な変革を推進するための8段階のプロセス
1. 危機意識を高める
2. 変革推進のための連帯チームを築く
3. ビジョンと戦略を生み出す
4. 変革のためのビジョンを周知徹底する
5. 従業員の自発を促す
6. 短期的成果を実現する
7. 成果を生かして、さらなる変革を推進する
8. 新しい方法を企業文化に定着させる
――「企業変革力」(P45)
このプロセスの1番目であり、全てのスタートとなるのが、危機意識を高めること。原著では「Create a sense of urgency」として表現されるくらい、とても緊迫度が高い項目です。そのあとの同教授の著書「企業変革の革新」は、邦題こそそのようなタイトルになっていますが、原著は「A Sense of Urgency」であり、この危機意識を高めるという最初のステップがいかに重要かということが分かります。
本物の危機意識を高める基本戦略と4つの戦術
・基本戦略
・頭(理性)と心(感情)の両方に訴えかけ、目を覚まさせ、行動を促す
・戦術
1. 外を内に呼び込む
2. 危機感を行動で示す
3. 危機を好機とみなす
4. 変革否定論者に対処する
――「企業変革の革新」(P80から一部抜粋)
コッター教授は、危機意識を維持し続けるために必要な点を、上記のように述べています。
変革を阻む免疫機能の恩恵を受けてさまざまな不安に対処し、今の仕事を進めるために最適化された現状は、まさに変革を望まない「このままでいい」という心理を生み出すもの。言い方を変えれば、本当に危機感を感じる必要がないという状況は理想的なのもしれません。
しかし、ビジネス環境はさらに複雑になりながら変化していますし、働く個人もそのライフステージに応じて変化が必要になってくるものです。いかにして変革の必要性と重要性を個人・組織の両面で感じることができるか。そして、なぜ今変わらなくてはいけない緊迫感があるのか。これを高めることが変革の第一歩であることは大きくうなずけます。
関連記事
- 約2割の企業が「働き方改革」をやっていない 理由は「必要ない」「効果が不明」
17.7%の企業が「働き方改革」に取り組んでいないという。帝国データバンクの調査で判明した。その理由は「必要性を感じない」「効果を期待できない」などが出た。 - 生産性向上の第一人者が厳選した“出社したくなるオフィス”5社
NTTデータ、Google、味の素、タマノイ酢、オトバンク……。「テレワーク時代」が到来する中、従来のオフィスの在り方を見直し「社員が来たくなるオフィス」作りに工夫を凝らしている企業もある。 - 世界が知らない“最強トヨタ”の秘密 友山副社長に聞く生産性改革
トヨタがレース活動を通じて働き方改革を推進する理由。トヨタGRカンパニーのプレジデントである友山茂樹副社長へのインタビュー取材によって、なぜそんな大胆な改革が可能なのかを究明した。 - 「生産性を上げても賃金は上がらない?」 伊藤元重学習院大学教授に聞く“日本経済の処方箋”
経済財政諮問会議のメンバーである伊藤元重学習院大学教授に、働き方改革を進める上での課題と日本経済の処方箋を聞いた。 - 社員の働き方を変える実にシンプルな方法 カルビー・松本会長
「プロ経営者」として日本を代表するカルビーの松本晃会長兼CEO。今月末でカルビーの会長職を退任予定の松本氏に、同社での9年間を振り返ってもらうとともに、注力した働き方改革についてインタビューした。
GLOBALCOPYRIGHT © OKAMURA CORPORATION.ALL RIGHTS RESERVED