自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。
しかし、小田急電鉄がバスの自動運転に熱心な理由は、喫緊の課題である「人材不足」と「高齢化社会」だ。沿線の総人口は2035年までに約516万人から約490万人へと約5%の減少が見込まれている。生産年齢人口は約335万人から約288万人へ、約15%の減少だ。バスドライバーの減少にもつながる。一方で、バスなどの公共交通に頼る人々、つまり高齢者や自動車非保有者、運転免許取得資格のない18歳未満の総計は、現在の約301万人から約321万人に増加する。
乗客は増える。バスのドライバーは減る。これは小田急沿線に限った話ではない。九州にバス路線網を築く西日本鉄道は3月のダイヤ改正において、ドライバー不足を理由に福岡市近辺の路線バスを減便した(参考記事)。高知県のとさでん交通は3月、「地方のバス事業者が抱える課題とその早急な対策の必要性について」と題した資料を公開した。
小田急電鉄で問題が深刻な理由は、小田急グループで6社のバス運行会社を抱えており、乗り合いバス保有数で日本一だからである。その保有台数の合計は約3500台に上る。また、小田急電鉄本体の鉄道事業にとって、駅と家、駅と会社などのラストワンマイルをつなぐ役目としてバスがある。バスが減便すれば、鉄道の利用者減にもつながりかねない。もちろん、バスが不便な街に人は住まないから、不動産、流通など全ての業界にとって危機感がある。
そこで、路線バスを自動運転にして人材難を乗り越えたい。しかし、現状の自動運転は理想からは遠い。これでいいのか。そこまで思い至ったとき、私は小田急電鉄の勇気に敬服した。小田急電鉄は、危機的な状況を自らさらしてみせることで、公共交通に対する警鐘を鳴らし、自動運転技術の発展のために多くの課題解決策が必要だと知らしめたのだ。
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