「就活ルール廃止」後も“新卒一括採用”がなくならない、これだけの理由:雇用ジャーナリスト海老原嗣生が斬る(6/6 ページ)
中西宏明経団連会長の発言で波紋を広げる「就活ルール」。だが経団連が「就活ルール」を廃止したとしても「新卒一括採用」がなくなることはない。現行の採用ルールができた経緯を振り返り、今後の就活の在り方を考える。
正常化のためにやるべきことは3つ
ここまで説明してきたように「就活ルール」をなくせば、超早期採用が横行し、大学・企業とも消耗戦となるために、採用協定が自然とまた生まれるだろう。日本は過去90年にもわたり同じことをやってきたのだ。ルールに穴をあけるような「超早期採用」「秋冬型通年採用」「既卒新卒扱い」などの施策にはすでに先行事例がある。だが結果的に、新卒一括採用に揺り戻されたというのが事実なのだ。
規制で壊れそうなものを守っているのではなく、市場原理が規制を歓迎しているということである。この混迷を解決するためには、「日本型雇用そのもの」を変えない限り、問題は解決されない。しかし、この「日本型雇用」は思った以上に手ごわい。まずは「就活ルール」を適性化するしかないだろう。
そのヒントは冒頭に申し上げた秋山氏寄稿にもある。現行の就活は就職ナビサイトのオープン日が、事実上の解禁日となっていることは秋山氏も認めている。ならば、就職ナビサイトの規制が一番実効性のあるルールだろう。現行ルールでも、企業の採用広報は3年生時の3月1日に規制されている。それなのになぜ、「抜け駆け採用」ができるのか? 最大の理由は、インターンシップに名を借りた「偽装説明会」が横行しているからだ。そこに網をかければ、抜け駆けは困難になる。
企業も暇ではないから、説明会目的のインターンシップを何日も掛けてやるわけがない。そのほとんどは「1Dayインターン」だろう。実際、大手サイトの調査では、18年のインターンシップはその過半(53.4%)が「1日」となっている。そしてこの数値はかつて旧ルールの4月1日選考解禁だったころは、わずか12.4%だった。この間に、全体の実施率も43.5%から73.4%に伸びているものの、計算するとその伸びのほとんどが「1Dayインターン」だったことが分かる。採用活動が遅くなりすぎて、解禁ルールを守れなくなった多数の企業が、「1Day偽装説明会」を開催しているのだ。
就活ルールは必要悪だ。ただし、間違った時期設定は最悪の結果となる。今やるべきことは3つだ。(1)4月1日解禁に戻し、(2)就職ナビ規制を厳しくし、(3)1Dayインターンシップにしっかり縛りを設けること。これで、当面の騒ぎは収められる。就活を巡る騒ぎが、これ以上繰り返されないことを祈る。
筆者プロフィール
海老原嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト、経済産業研究所コア研究員、人材・経営誌『HRmics』編集長、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。その後、リクルートワークス研究所にて人材マネジメント雑誌『Works』編集長に。2008年、人事コンサルティング会社「ニッチモ」を立ち上げる。『エンゼルバンク――ドラゴン桜外伝』(「モーニング」連載)の主人公、海老沢康生のモデル。主な著書に
『「AIで仕事がなくなる」論のウソ この先15年の現実的な雇用シフト』(イースト・プレス)、『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(ちくま文庫)、『仕事をしたつもり』(星海社新書)などがある。
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