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東急の鉄道分社化で「通勤混雑対策」は進むのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

東急電鉄が鉄道事業を分社化すると発表し、話題になった。この組織改革は「混雑対策への大きな一歩」になるのではないか。対策に迫られている田園都市線渋谷駅の改良につながるかもしれない。なぜなら……

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鉄道分社化は渋谷駅改良につながるか

 田園都市線は東急電鉄の多摩田園都市構想のアクセス路線として建設された。二子玉川〜渋谷間は、国道246号線を走っていた路面電車の玉電を地下化して新玉川線とし、地下鉄銀座線と直通運転する構想がもとになっている。その後、銀座線の混雑対策として地下鉄半蔵門線の建設が決まり、新玉川線と半蔵門線が直通運転した。のちに田園都市線と新玉川線、半蔵門線の相互直通運転が始まり、新玉川線は田園都市線に組み入れられた。

 だから田園都市線も半蔵門線も、相当の乗降客が見込めたはずだけど、渋谷駅は1面2線で作られた。今となっては見込み違いだ。しかし、いったん地下トンネル内に作られた駅の拡張は、技術的にも費用的にも難しい。鉄道会社だけで解決できる規模ではない。

 一方、小田急電鉄は複々線化を完成させて輸送力を増強した。これは東京都が主体となって推進する連続立体交差事業がもとになっている。小田急電鉄は自社の価値向上のための設備投資負担で済んでいる。しかし、田園都市線はすでに地下化工事が終わっている。連続立体交差事業に便乗した線路設備の拡張はできない。

 もし、渋谷駅の拡張、さらには田園都市線の地下区間の複々線化を実施しようとするなら、東急電鉄単体では負担できない。そこで沿線自治体や国に支援を求めたい。しかし、連続立体交差事業という枠組みが使えないし、黒字経営の東急グループに公的資金は投じられない。災害復旧でさえ、黒字会社の公的支援がやっと決まったばかりだ。

 そこで、東急クループ全体と東急電鉄のお財布を完全に分けて、公的資金の受け皿にしたい。これが鉄道事業の分社化の念頭にあるかもしれない。そこまでしなくても、条例改正や新たな枠組み作りで対応できそうだ。しかし、まず民間企業である東急電鉄側が受け入れの態度を見せ、解決に取り組む姿勢を見せる。これが大事だ。

 さて、東急電鉄の鉄道事業分社化と渋谷駅改良はリンクするだろうか。何年後かの答え合わせが楽しみになってきた。

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東急電鉄が2010年に国土交通省に示した「東急電鉄の取組み」の資料。将来の課題として、田園都市線渋谷駅のプラットホーム増設に触れている(出典:国土交通省

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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