58羽のペンギンの名前を瞬時に呼ぶ、水族館飼育員ワザの秘密:すみだ水族館に潜入(4/6 ページ)
すみだ水族館のペンギンがいるプールでは、1日3回、飼育スタッフたちの元気な声が響く。餌やりの時間だ。58羽いるペンギンの名前を声に出し、連携して動くスタッフたちに、思わず目を奪われる。どのようにあの技を身に付けているのだろうか。
ペンギンの「個性」を知ってもらいたい
今では堂々と業務をこなしている福谷さんだが、当初は失敗もあった。「入ったばかりのころ、自分の餌やりのスキルを向上させることに気を取られて、ペンギンたちの様子を見るのを怠ってしまったことがありました」と振り返る。見ていたのは自分の手元ばかり。その振る舞いを先輩に指摘され、「しっかりと見ないのならやらないで。ペンギンに関わらないで」と叱られた。数日間、何もさせてもらえなかった。
「ささいなことでも見逃してはいけないことを実感しました。ペンギンがけがをしていても、一番近くにいる自分が気付かなかったら悪化させてしまうかもしれない。人任せではなく自分がやらないといけない、という自覚を持ちました」
飼育スタッフたちの行動に動物たちの命が懸かっている。たとえ新人であっても、ミスが許されない仕事だ。
福谷さんは仕事をしている中で、「お客さんがペンギンの名前を覚えてくれるとうれしい」と感じているという。「ペンギンたちの“個性”を知ってもらいたいんです」と力を込めて言う。
ペンギンたちはみんな同じように見えて、実は全然違う。「ペンギンたちの関係性が人間みたいなんです。カップルがいたり、けんかしたり、三角関係になったり……。鳴き声にもいろいろあります。好意を伝える声や怒っている声、誰かを呼んでいる声など、意味も分かってきます」
すみだ水族館で11月18日まで開催しているキャンペーン「LOVE推しペン超選挙」も、ペンギンの個性を打ち出した企画だ。公式Webサイトでは、58羽のペンギンの「相関図」を公開している。複雑な“ペンギン関係”をいくらでも眺めていられそうだ。
水族館の飼育スタッフの仕事は、ただ飼育するだけでなく、この場所に生き物がいる“意味”を考え、それを伝えようとする姿勢が必要だということが分かった。福谷さんは「何か一つでも、お客さんの記憶に残るものを伝えられるように、スキルを磨いていきたいです」と意気込む。生き物に対する思いが、成長の糧となっているのだろう。
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