58羽のペンギンの名前を瞬時に呼ぶ、水族館飼育員ワザの秘密:すみだ水族館に潜入(3/6 ページ)
すみだ水族館のペンギンがいるプールでは、1日3回、飼育スタッフたちの元気な声が響く。餌やりの時間だ。58羽いるペンギンの名前を声に出し、連携して動くスタッフたちに、思わず目を奪われる。どのようにあの技を身に付けているのだろうか。
餌やりが「鮮やか」に見える理由
いざ餌やりの現場に立つと、全員の情報が頭に入っていてもうまくいかないことがたくさん出てくる。餌を持って岩場に立ち、ペンギンたちに囲まれると、その個性の強さをより実感するのだ。「餌の横取りが上手な子が近くにいるかどうか」「周りに何羽ぐらいいる状況か」など、その場の状況によって餌のあげ方は変わってくる。また、餌やりのタイミングでペンギンたちの体調やけがの様子もチェックする。「考えることはたくさんある。頭と体を両方動かします」と福谷さんは話す。
餌やりをチェックする係も、臨機応変に動くことが求められる。餌をあげる係の声を聞き取り、餌を食べたペンギンの名前にチェックを付けていく。どんどん声が上がるため、「最初は手が追い付かなかった」。また、他の人が出す声の合間を縫って、十分に食べていないペンギンの名前を声に出し、指示をする。また、プールの上の通路から見ている客に解説も行う。
「今、○○という子にあげようとしています。今日はまだあまり食べていないんですよ」などと、水槽の前にいる客に声を掛けるのが、外から指示を出す係だ。福谷さんは「外のポジションが最も難しい」と説明する。他のスタッフに指示を出しながら、客に声を掛けて興味を引き付けることも求められるからだ。スタッフ同士の会話に入り込みすぎてもいけないし、客と話し込んでしまっても業務が滞ってしまう。バランスが難しいポジションだ。
3つの役割がうまく機能しているからこそ、その動きが鮮やかに見える。やり方を覚えるだけでなく、コンビネーションも重要だ。福谷さんは何度も練習を繰り返し、1年半かけて全てのポジションの業務を1人でこなせるようになった。
飼育スタッフの動きが鮮やかに見える理由は他にもある。張りのある声がよく通り、しぐさも分かりやすいからだ。実は、それも練習の成果。舞台演出家による指導を受けているという。発声や身振りなどを練習するために、バックヤードに大きな鏡が設置されている。そこまでやるのは、お客さんに「伝える」ためだ。
その成果が表れているのは、ペンギンの餌やりだけではない。福谷さんが担当する、オットセイも同じだ。餌の時間になると、オットセイたちを水槽の外に出して、客がいるフロアを1周散歩する。自分のすぐ横を通っていくオットセイは迫力満点だ。オットセイが自分のそばを離れないようにうまく誘導しながら、客にも声を掛けていく。
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