小さな段ボール工場が変えた避難所の光景:社長の思い(2/6 ページ)
大阪府八尾市の一角にある小さな町工場のJパックス株式会社。作っているのは、段ボールだ。この会社が被災地の避難所の光景を変えようとしている。
段ボールベッドの長所
段ボールベッドを避難所で利用する最大のメリットは、何といっても「遮断性」だ。中でも「断熱性能」は大変高く、同社が集計したデータによると、床に直接寝る雑魚寝と段ボールベッド利用時とでは、体感温度が10度も違うという。また、「断音・断振」にも優れている。地べたで寝ることで響き伝わってくる他人の足音や振動も抑えることができるため、深い睡眠も取りやすくなる。
製作過程も比較的容易で、機械による大量生産が短時間で可能な上、軽くて運搬や組み立ても楽なため、大きな人的労力を必要としない。1床組み立てるのにかかる時間は、最新型だと4分程度だ。
もちろん強度も申し分ない。日本の段ボールの原料は、「リサイクルされた段ボール」。幾度となく再利用を繰り返すため、海外の木材チップを原料とするバージンパルプの段ボールに比べると繊維が短く、どうしても品質が劣りやすくなるのだが、世界でも群を抜く日本のリサイクル技術や設計技術によって、見た目からは想像できないほど頑丈な段ボールが作られる。均等荷重はなんと7トン。人が座ったり寝転がったりしても、潰れたり壊れたりすることはない。
さらにいいのが、その収納能力だ。避難所として使用される体育館や公民館は、どうしても1人分のスペースが限られてくるため、私物をしまっておける十分な空間を確保しづらいが、ベッドが段ボールならば、その中に収納できる。避難所から自宅や仮設住宅への引越しの際も、そのまま運び出せるため、搬出時に余計な手間がかからない。避難所のベッドを段ボールにすれば、こうした本来の特性が最大限生きてくるのだ。
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