シリアから解放の安田氏に問われる、ジャーナリストとしての“2つの姿勢”:世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)
シリアで武装組織に拘束されていた日本人ジャーナリストが解放された。世界的なベテランジャーナリストに見解を聞くと、ジャーナリストとしての「姿勢」について指摘していた。安田氏に欠けていた姿勢とは?
「正しい選択」をするための準備を
筆者も、雑誌記事の取材のためにイスラム原理主義勢力タリバンが外国人を頻繁に誘拐・殺害していたアフガニスタンとパキスタンの国境周辺地域に潜入したことがある。また別の紛争地域では、取材先でテロ組織ともつながっている政府のスパイ工作員に一時拘束されたこともある。イスラム系テロ組織を追った拙著『モンスター』の取材では、領有権問題で今も軍とテロ組織が衝突するインド・カシミール地方にも何度か取材に入って長期滞在したこともある。
実は筆者も潤沢に取材費を得ていたわけではない。ただ最大限のバックアップ体制は考えていた。
常に現地人の同僚記者(ロイターなど)と行動を共にし、その仲間をドライバーや通訳に連れ、同国内で他の地域にいる現地人の先輩ベテラン記者にも頻繁に連絡してアドバイスを受けるようにしていた。例えば、パキスタン国境地域でタリバンが支配する地域の近くに取材で入った際には、先輩記者に直前に連絡し、「その周辺では2時間以上は同じ場所にとどまらないこと」とアドバイスを受けて、それに従って動いたことをよく覚えている。
そんな経験から、筆者は今回の件についてはこう考えている。ジャーナリストとして、戦地であっても現地に入ろうとする心情は理解できる。人が行かない(行けない)ところに潜入して、人が知り得ない現実を伝えたいという動機も分かる。
ただそれは、考えられる限りの安全を確保した上で初めて実行に移すべきであるということだ。特にメディアなどを狙った誘拐事件が頻発し、状況が不安定ですぐに爆撃やドンパチが発生するような戦地では、サミュエルズ氏が言うようにかなりの安全対策をしておく必要がある。少なくとも、正しい選択をする助けをしてくれる人(たち)が必要になる。
フリーのジャーナリストたちからは「そんなことは重々承知だが、大手メディアは取材に金を出してくれない」という反論があるかもしれない。ただ、だからと言って、安上がりに戦場に行こうとするのは向こう見ずである。
もし見切り発車で危険地域に入り、なんとか無事に帰ってきたとしても、今、日本のメディアがシリア内戦の情報に多くの原稿料を払って掲載してくれる保証はない(3年前でも大差はない)。取材費用をカバーできるとも考えにくい。戦場取材は多くの場合、カネにはならない。
関連記事
- どうすれば救えるのか シリアで人質の日本人を
シリアで武装組織に拘束されているとみられるジャーナリスト・安田純平氏の最新映像が公表された。報道によると、武装組織から身代金を請求されているが、日本政府はその要求には応じない方針だという。では、どのようにして安田氏を助け出すのか。 - “ニセ戦場カメラマン”が世界のメディアをだますことができた理由
大手メディアに写真を掲載する「戦場フォトグラファー」のエドゥアルド・マルティンス。実は名前から職業まで全て捏造だったのである。この事件は、世界中のプロのフォトグラフィー業界が現在抱えている問題を浮き彫りにしたといえる。 - 「ゲリラ・ジャーナリスト」が日本に上陸する日
米国で「ゲリラ・ジャーナリスト」が話題になっていることをご存じだろうか。ジャーナリストの手法とは呼べない無茶苦茶なやり方で、大手メディアの記者などを標的にして、トンデモな映像を公開している。もしゲリラ・ジャーナリストが日本に上陸したら……。 - 「才能ある貧乏」と「無能な金持ち」はどちらが成功する? 浮かび上がった不都合な事実
遺伝子から子供の才能を調査し、育つ家庭の裕福度によって学歴がどう変わるかを明らかにした研究が話題になっている。「才能」と「環境」のどちらが将来を決めるのか。その結果から、現代社会の問題も浮き彫りになった。 - だから世界的に「メディア不信」が広がっている
日本のネット界隈で「マスゴミ」という言葉がすっかり定着した。さまざまな調査結果をみると、既存メディアへの信頼度が低下しているようだが、海外メディアはどうなのか。日本と同じように……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.