シリアから解放の安田氏に問われる、ジャーナリストとしての“2つの姿勢”:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
シリアで武装組織に拘束されていた日本人ジャーナリストが解放された。世界的なベテランジャーナリストに見解を聞くと、ジャーナリストとしての「姿勢」について指摘していた。安田氏に欠けていた姿勢とは?
なぜフリージャーナリストは戦場に行くのか
では、「そもそも論」になるが、なぜフリーの戦場ジャーナリストたちは、金にもならない上に、命に関わるリスクを負ってまで、戦場に赴くのだろうか。「民主主義を守るため」「国民の知る権利のため」といった美辞麗句が出てくるかもしれない。もちろん、それは理想であるし、そうあるべきである。その信念で動いている人もいるだろう。だが、ほとんどタダ働き同然で、その理想のために命を懸けるのは、何か違う気がしてならない。それはもはや、ジャーナリズムではなく、命を懸けたボランティアまたは人権活動である。ジャーナリズムは活動ではなく、職業である。
結局、このご時世になぜフリージャーナリストが戦場に行くのかといえば、一つにはジャーナリズムが人権活動になってしまっているケースが考えられる。ジャーナリストの仕事を逸脱し、主義主張を押し付ける活動になってしまっている場合だ。
また、少しうがった見方もできる。「戦場ジャーナリスト」という肩書を維持するために戦場に行っているのではないか、という見解だ。サミュエルズ氏も「今回解放された安田氏がどうかは知らないが、戦場に行ったということで名前を売っている人たちもいるのは事実だ」とも指摘していた。
そして、この両方とも、という場合も考えられる。
とにかく、今回の件がジャーナリストという職業についてあらためて考える機会になったとすれば、それはそれでいいことだろう。安田氏には、解放されたばかりで平常心に戻るのに時間がかかるかもしれないが、「何をしたらいいのかも分からない」ではなく、せめてジャーナリストの仕事をおとしめないためにも、全ての顛末をきちんとした形で伝えてもらいたいと願う。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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