幻の鉄道路線「未成線」に秘められた、観光開発の“伸びしろ”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
建設途中で放棄され、完成に至らなかった「未成線」。現在でもその残骸は各地に残っている。未成線の活用を語り合う「全国未成線サミット」が福岡県で開催された。未成線に秘められた、観光開発の「伸びしろ」とは?
未成線開発の「伸びしろ」は大きい
観光客として訪れれば、赤村トロッコも、とことこトレインも、北九州銀行レトロラインも楽しい乗りものだ。高千穂あまてらす鉄道は未乗だけど、メディアへの登場頻度は高く、楽しさが伝わってくる。いつか乗りに行きたいと思う。
トンネルに関しては産業利用の例が多い。観光利用としては、まず何か乗りものを走らせることが重要だろう。トロッコでもいいし、レールがないならレンタサイクルでもいい。
周辺の商業、観光施設との連携も重要だ。赤村トロッコの場合、ワゴン車の屋台があるだけで、きちんと食事をしたり休憩したりして滞在する場所がない。徒歩15分ほどの赤村物産センターには地元の方が活動する休憩所があって、450円でカレーライスが食べ放題。このカレーは「ばっちゃんカレー」としてレトルト食品化されており、赤村の新名物として期待されている。名産品販売所で買ったジャムもおいしかった。トロッコ運行日に赤村物産センターへ往復できるシャトルバスがあったらいいのに、と思う。
同様の「伸びしろ」は他の未成線にもあるだろうと思う。未成線に乗りものを走らせることは、新線開業並みのチャンスともいえる。赤村の人口は3200人。赤村トロッコは1日に最大300人が利用可能。規模は小さいとはいえ、トロッコ列車は人口の1割の交流人口を獲得できるわけだ。
今後の「未成線サミット」メンバーの発展に期待すると共に、似た境遇の「ロストライン協議会」との連携も模索してほしい。ロストライン協議会にも感じたけれども、まずはポータルサイト、結集して高頻度に発信するメディアが必要だと思う。内情では課題や問題点が多いとはいえ、未成線活用には観光開発の未来がある。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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