幻の鉄道路線「未成線」に秘められた、観光開発の“伸びしろ”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
建設途中で放棄され、完成に至らなかった「未成線」。現在でもその残骸は各地に残っている。未成線の活用を語り合う「全国未成線サミット」が福岡県で開催された。未成線に秘められた、観光開発の「伸びしろ」とは?
課題は「高齢化」「自治体の境界線」
「高千穂あまてらす鉄道」「北九州銀行レトロライン」は、他の団体とは趣が異なり、ロストライン協議会に所属したほうが分かりやすい。しかし、考えようによっては未成線も「営業せずに廃止された路線」ではないか。「未成線サミット」と「ロストライン協議会」は互いに交流を深めて学び合うことがたくさんありそうだ。
各社が登壇したあとに開催されたパネルディスカッションでは、現状の問題点、将来に向けた課題について意見が交換された。問題点として最も多く挙げられた意見は「スタッフの高齢化」「人材不足」だ。
赤村トロッコは15周年。当時、定年退職後にボランティアで参加した人々は70代に入っている。スタッフが多ければ交代で毎週の運行も可能だろうけれども、現状では月1回の維持にとどまる。
これは毎週末運行の岩日北線とことこトレインも同様。五新線や今福線では新しいことを企画しても、ボランティアの数が足りない。後継者問題も深刻だ。未成線活用の原動力は「開通を期待した鉄道路線が中止になった無念」であろう。その気持ちは、鉄道が計画されていたことを知らない世代には伝わらない。後継者に対しては「無念」ではなく「未来」を託さなくてはいけない。ボランティア頼みにも限界があって、人材を確保するために賃金の支払いを検討する必要がある。つまり、商業的展開を検討しなければならない。
「隣の自治体へ延伸したい」という願いも切実だ。赤村トロッコはトンネルの途中で引き返す。そこが赤村と隣の大任町(おおとうまち)の境界だからだ。トンネル内に柵があり、出口の光が見えているけれども、出られない。これは岩日北線も同様で、広島県と島根県の境にある4700メートルの六日市トンネルが未活用のままになっている。工事には5年もかかり、出水対策も難工事だった。とことこトレインの性能では通れない難所があり、トンネルを越えるためには新たな手段が必要になるという。
高千穂あまてらす鉄道は、旧高千穂線のうち高千穂町内の運行にとどまる。隣の日之影町、さらには延岡市の廃線に乗り入れできればJR延岡駅に近くなる。理解を得たいが温度差が大きいという。高千穂あまてらす鉄道は集客が順調に増えている一方で、レールや枕木の設備更新、高千穂橋梁の塗り替えなどが課題だ。線路設備は高千穂町が保有しているため、高千穂あまてらす鉄道の負担は小さいとはいえ、それだけに自治体頼みである。
北九州銀行レトロラインも上下分離方式で平成筑豊鉄道が運行している。こちらは会社組織だけあって人材不足や高齢化の問題は表面化しないようだ。目下の課題は集客の低下だという。開業時に20万人が訪れたけれども、近年は10万人と半減した状態で推移する。リピーターの獲得と訪日観光客の獲得が課題。他の団体に比べて規模が一段大きいけれども、それなりの悩みはある。また、企業運営だから、赤字が続けば経営判断で廃止というおそれもある。
関連記事
- 廃線観光で地域おこし 「日本ロストライン協議会」の使命
全国で廃線利活用事業を営む団体の連携組織「日本ロストライン協議会」が設立総会を開いた。4月9日の時点で15団体が参加している。廃止された鉄道施設を観光や町おこしに使おうという取り組みは、鉄道趣味を超えた新しい観光資源を作り出す。 - 自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。 - 情緒たっぷりの「終着駅」 不便を魅力に転じる知恵とは
広島県のJR可部線が延伸開業してから1周年を迎え、記念行事として「終着駅サミット」が開催された。終着駅が持つ魅力と役割を再認識し、終着駅を生かしたまちづくり、沿線の活性化を考えるという趣旨だ。情緒だけでは維持できない。維持するためにまちづくりが必要。それは日本の地方鉄道の縮図でもある。 - 「そうだ 京都、行こう。」はなぜ25年も続き、これからも続いていくのか
JR東海のキャンペーン「そうだ 京都、行こう。」が25周年を迎えた。なぜこのキャンペーンは始まり、今も続いているのか。京都がJR東海にとって重要だから、というだけではない。新たな目的もありそうだ。 - JR北海道の“大改造”構想 「新・新千歳空港駅」「ベースボールパーク新駅」
新幹線札幌駅が決着したJR北海道に新たな動きがあった。北広島市のベースボールパーク新駅構想に引き込み線方式の大胆案、新千歳空港駅も大改造構想が立ち上がる。JR北海道だけではなく、北海道全体にとっても良案だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.