医師の命は軽い? 過労自殺を生み続ける“加害者”の正体:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
「過労死」「過労自殺」は何度も問題になっているが、2018年版「過労死白書」では働く人たちの苦悩が続いている現状が浮き彫りになった。過労自殺は長時間労働だけが問題なのではない。教職員や医師・看護師の働き方の分析から、私たちが考えるべきこととは?
「過労自殺」は長時間労働だけの問題ではない
過労死とは、いわゆる「突然死」です。長時間労働による過重な負荷が脳や心臓にかかって引き起こされる、脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡です。
国内外の多くの研究で、長時間労働および深夜勤務と、脳血管疾患や心臓疾患は強く関連していることが認められています。週50時間を超える勤務でリスクが高まるとする報告もあります。
つまり、やる気とか仕事好きとか関係なく、長時間労働によって睡眠時間が減ると「疲れる→休む→回復する」というサイクルが機能しなくなり、体は確実に蝕まれます。そして、ある朝突然、心筋梗塞で亡くなったり、くも膜下出血で倒れてしまったりするのです。
一方、過労自殺は、仕事上の強い心理的負荷により、生きる力がなえた末の死。重い責任、過重なノルマ、達成困難な目標設定などにより精神的に追い詰められ、長時間労働で肉体的にも極限状態に追い込まれる。
特に、“overwork”すなわち「自分の能力的、精神的許容量を超えた業務がある」という自覚が強まると、過労自殺を招く確率が高まります。
本当はSOSを出したいのに、受け止めてくれる人がいない。本当はもっと生きたい。でも、生きているのがつらい。その結果、「死」という悲しい選択をしてしまうのです。
過去10年で10倍も増えた過労自殺(未遂者を含める)をなくすには、「長時間労働」だけでなく「職場のストレス要因」も除去し、人間関係のいい職場づくりをめざすことが必要不可欠。
繰り返しますが、「過労自殺」は、単に「労働時間を短くすればいい」というものではなく、本人を追い詰めるストレスも同じように考慮すべき問題なのです。
関連記事
- “やりがい搾取”に疲弊 保育士を追い詰める「幼保無償化」の不幸
消費増税まであと1年。同時に「幼児教育・保育無償化」も始まる。しかし「保育士の7割が反対」という調査結果が示され、受け皿の不足と負担増加が懸念されている。このまま無償化するのは「保育士は灰になるまで働け!」と言っているのと同じなのではないか。 - 減り続ける「管理職のイス」と“死亡率”急上昇のリアル
「管理職になりたくない」人が6割を占める調査結果が問題になっているが、管理職の椅子が減っている現状を考えれば、希望者は4割で十分。それよりも、管理職の在り方そのものを見つめ直す必要がある。 - 「1カ月の夏休み」は夢? 日本人の“有給の取り方”がズレている、歴史的背景
月曜を午前半休にする「シャイニングマンデー」。経産省内で検討していると報じられたが、そんな取り組みは「無駄」。日本人は、世界では当たり前の「有給休暇をまとめて取る」こともできていないからだ。なぜできないのか。歴史をさかのぼると……。 - 日本人、それってオカシイよ 「過労死」を生む日本企業の“常識”
過労死の問題が話題になっている。この問題に対して、海外メディアはどのように報じているのか。「労働時間」「残業」「休暇の取得」などは常識の範囲内で行っているつもりかもしれないが、外国人からは“非常識”に映っているようだ。 - 女性記者の過労死問題で、なぜNHKはウソをついたのか
NHKの女性記者が「過労死」していたことが分かった。2013年7月にこの女性は亡くなったわけだが、なぜNHKはこの大きな問題を伏せていたのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.