ライバルと明暗 栄華を誇った「小僧寿し」だけが大きく苦戦した理由:長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/6 ページ)
かつて2300店超を誇った「小僧寿し」だが、近年は回転すしや持ち帰りすしチェーンの猛追で苦戦していた。同じ持ち帰りのチェーンが踏みとどまってるのになぜ小僧寿しだけ苦戦しているのか。
小僧寿しを脅かした回転すしチェーン
2000年代に入って、回転すしチェーンの急成長により、低価格なすしのエンターテインメント化が進み、次第に小僧寿しは窮地に立たされる。
かっぱ寿司が開発した新幹線で注文品を高速に運ぶ「特急レーン」や、くら寿司の食べ終わった皿を5枚入れると自動的にくじ引きが始まる「びっくらポン!」など、今まで見たこともなかった画期的なシステムに人々は注目し、子どもたちは狂喜した。
さらに、スシローは1皿100円とは思えないクオリティーの高さで差別化を実現し、小僧寿しは追い上げてくるライバルに、面白さと味で差をつけられ、安さだけでは対抗しきれなくなり、ズルズル後退していく。
すしは持ち帰って食べるものではなく、お店に行ってにぎやかに外食するものという新常識が定着し、今日に至っている。基本、持ち帰りずしは “人が握ってつくり置き”だが、回転すしは“すしロボットが握ってつくりたて”である。大衆は後者を選んだ。
失敗した巻き返し策
山木氏は04年10月に上梓した『強さと弱さ 小僧寿しチェーンの秘密』(星雲社)で、1991年には徒歩や自転車で3分以内からの来店客数が全体の33%だったのに対して、03年には72%に急増。一方で、車で5分以上かかる場所からの来店客数が、33%から6%に激減していると言及。商圏の縮小が店の売り上げ減につながっているとした。そして、宅配によって商圏を拡大して攻めること、小商圏に細かくドミナント出店して接客技術の向上によりファンを増やすことを解決策に挙げていた。
ところが、その後は不採算店の撤退により、店舗数が大幅に減っているのが実態である。宅配も進まず、戦略は失敗に終わったと言わざるを得ない。
そして、住宅街立地にこだわったのも裏目にでた。スーパーは日常品のワンストップショッピングを目的とした顧客層を抱えているので、個別ですしのサービスをしても反響がないと考えた。また、駅前商店街は集客力が落ちているとの理由で、こちらも出店に否定的であった。
この方針により、駅前や郊外のショッピングセンターに出店する道が断たれた。同じ持ち帰りずしでも、そこに活路を見いだした「ちよだ鮨」と「京樽」が踏ん張ったのに対して、小僧寿しが大きく後退してしまい、結果として明暗を分ける形になった。あまりにも大きな立地戦略のミスであった。
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