この冬話題の鉄道映画2本! 描かれたのは「地方鉄道」が果たす役割:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
この冬、地方鉄道が舞台となった映画が2本公開された。どちらも女性が主人公で「家族」をテーマにしている。もちろん、地方鉄道の現状の様子や美しい風景などもふんだんに盛り込まれている。この機会に楽しんでみては。
『えちてつ物語』に登場する、貴重映像
さて、こうした経緯を知らずに、『えちてつ物語』の主人公、元お笑い芸人の山崎いずみ(横澤夏子)は福井に帰ってくる。兄(緒形直人)夫婦が経営するそば屋に身を寄せるけれども、実はいずみは芦原温泉の芸者の娘で、亡父が引き受けた養女だった。兄の厳しい言葉に居心地も悪く、自立するためにえちぜん鉄道のアテンダントになる。
いずみは当初、お客さま案内係として明るく振る舞えばいい、と軽く考えていたけれども、老女や妊婦、はしゃぐ高校生など、さまざまな客と向き合う仕事の重さに打ちひしがれる。しかし、物語後半のある事件で、アテンダントの意味に向き合い、えちぜん鉄道の社長(笹野高史)らの心を動かす。誰かを思いやる気持ちが大切、そこに気づいたとき、兄の優しさを知り、家族のつながりを取り戻すのであった。
観光地の研修と称して沿線の観光地をバッチリ紹介するなど、地方振興映画の要素もちゃっかり仕込んでいる。えちぜん鉄道の短い列車が風景の中をさわやかに駆け抜ける。福井駅前や勝山駅前の恐竜像など、知らない人にとっては興味深いだろう。福井・勝山は恐竜の化石発掘で世界的にも知られた場所だ。劇中には出てこないけれど、勝山市の福井県立恐竜博物館は世界三大恐竜博物館である。
物語の終盤にかけて、福井の人々は「さぎっちょ」と呼ばれる祭に向かってそわそわしていく。さぎっちょとは、勝山の左義長祭のこと。これは300年も続く火祭りで、町内会ごとに屋台を出して、踊りながら太鼓を打つ「浮き太鼓」も描かれる。劇中の見どころの一つ。
鉄道ファンとしての見どころはえちぜん鉄道の福井駅の場面。ロケが行われた時期は現在の駅舎の完成前。北陸新幹線の高架区間を借りた仮駅舎だ。地方鉄道が新幹線の高架施設を間借りするという珍しい現象が、この映画で収められている。資料映像としても貴重と言える。
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