この冬話題の鉄道映画2本! 描かれたのは「地方鉄道」が果たす役割:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
この冬、地方鉄道が舞台となった映画が2本公開された。どちらも女性が主人公で「家族」をテーマにしている。もちろん、地方鉄道の現状の様子や美しい風景などもふんだんに盛り込まれている。この機会に楽しんでみては。
『かぞくいろ -RAILWAYS わたしたちの出発-』 人気シリーズ3作目
『かぞくいろ -RAILWAYS わたしたちの出発-』は11月23日に鹿児島と熊本で先行公開。11月30日に全国のシネマコンプレックスなどで公開された。
鉄道と人生をテーマとした『RAILWAYS』シリーズの3作目。1作目は中井貴一主演の『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(10年)、2作目は三浦友和主演の『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』(11年)。この調子で3作目も待望されていた。しばらく音沙汰がなかったけれども、7年ぶりに有村架純主演で公開された。オリジナル脚本だ。各作品ともつながりはないので、今作から見ても大丈夫。
新作公開まで7年もかかった理由は、鉄道の魅力に引っ張られることなく、物語性を強く打ち出すためだったという。舞台が肥薩おれんじ鉄道になったきっかけは、13年に鹿児島の映画館で、2作目の『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』をイベント上映したから。そこで、肥薩おれんじ鉄道をぜひ、とプッシュされた。
ところが1作目の一畑電鉄、2作目の富山地方鉄道に比べて、旧鹿児島本線の肥薩おれんじ鉄道の車両は特徴がない。第三セクター向けの量産型車両だ。「沿線の景色は良いけれども、鉄道自体の魅力に乏しいかもしれない。そこで物語性を強く打ち出した」とゼネラルプロデューサーの阿部秀司氏はパンフレットに記している。
肥薩おれんじ鉄道は熊本県の八代駅と鹿児島県の川内駅を結ぶ116.9キロの長大なローカル線だ。元はJR九州の鹿児島本線だった。九州新幹線の並行在来線としてJR九州から切り離され、熊本県、鹿児島県、沿線自治体とJR貨物が出資する第三セクター鉄道会社となった。
劇中では「廃止するという案もあったけれど、地域の人々のために……」というせりふもあるけれど、九州新幹線自体が並行在来線の維持を条件に着工している。廃止案は報道されていなかったと私は記憶している。ただ、ドル箱だった長距離特急列車がなくなるため、経営が厳しくなることは開業前から自明であり、全線電化区間であるにもかかわらず、使用車両は気動車だ。電車ではなく気動車。これは鉄道好きの子役と母親である主人公の会話でフォローアップされていた。
肥薩おれんじ鉄道では若い女性運転士が活躍している。そこから、運転免許すら持たない若い女性が鉄道の運転士に挑戦するというプロットが生まれた。素人が運転士になるという筋書きは第1作にも通じる。トップスター有村架純の起用は、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』のヒロイン決定前に決まっていたという。
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