トヨタがスープラを「スポーツカー」と呼ぶ理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
長らくうわさのあったトヨタの新型スープラが、年明けの米デトロイトモーターショーで発表されることになった。今回はそれに先駆けて、プロトタイプモデルのサーキット試乗会が開催された。乗ってみてどうだったか?
埋まった外堀
なぜそれほどまでに運動性能にこだわるのかと言えば、そこには意外なストーリーがある。
エンターテインメント作品の影響だ。AE86が漫画『頭文字D』の影響でジャイアントキラーの軽量高運動性マシンに祭り上げられたのと同じく、映画『ワイルド・スピード』でフェラーリを打ち負かす超弩級のスポーツカーにされてしまったスープラは、全米の期待に応えて、本格的なスポーツカーでなければならなくなった。要するにパブリックイメージという外堀をあらかじめ埋められてしまった結果、そういうものでなくてはならなくなったのだ。
背景は背景として、詰まるところ乗ってみた印象としてスポーツカーとしての実力を備えているのかどうか? それが重要だ。
ヘビーウェットのサーキットでは、スープラはかなりのじゃじゃ馬だった。踏んで滑るのはドライバーの責任だから良しとして、減速しながらステアリングを切り込むとあっけなくリヤがブレークする。短いホイールベースが災いして減速時にリヤの荷重が抜けてしまうのだ。
そして一度滑り出すと車両重量が災いしてグリップがなかなか返って来ない。しかもそうなった時、ドライバーだけでなく、電制デフの方でも車両安定性の回復のためにいろいろとあがくので、クルマの動きがすこぶるつかみにくい。
もちろん十分に減速完了後、舵を入れれば大丈夫なのだが、その場合、直感的にいけそうな進入速度をだいぶ下回り、ストレスが溜まる。少なくともウェットのサーキットにおいてはリヤのスタビリティがかなり不足している。
一方でフロントタイヤの信頼感は抜群で、これだけのウェットコンディションでもアンダーステアは全く顔を出さない。ワイドトレッド化の恩恵だろう。なのでリヤタイヤのグリップ、つまりオーバーステアにだけ気を付けていれば大丈夫だ。
主査は公道でこそ真価を発揮すると説明していたので、恐らくはサーキットでは想定されたチューニングに対して減速Gが高すぎるのだと思う。
スープラは曲がるシャシー性能の実現に絞り込んで基本設計された。しかし機動性と安定性のバランスもまた必要である。そこで安定性を担保するのは電制デフの仕事だ。高速の直進性から、旋回時のヨーコントロールまで、多板クラッチを使ったデフで賄う。戦闘機のF16が機動性を重視した機体設計で作られ、本来真っ直ぐ飛ばない機体をコンピュータで微細に制御することで、真っ直ぐ飛ばしているのと基本的には同じ仕組みである。
しかし、ウェットのサーキットではデフで制御したくてもタイヤのグリップ限界を簡単に超えてしまう。どんなに素晴らしい電子制御のデフであろうと、タイヤのグリップ以上の仕事はできない。だからじゃじゃ馬になる。
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