「分かり合えないのは当たり前」――組織に必要な“対話”の在り方は?:経営学者・宇田川元一さんに聞く(1/4 ページ)
これからの時代に合わせて組織を再編していくために必要な“対話”とは、一体どのような行為なのか? 組織論、経営戦略論の研究者である宇田川元一さんが具体的なエピソードを交えながら詳しくお伝えする。
皆が気持ちよく伸びやかに働ける環境を実現するために、企業社会の中でどのような組織づくりを目指していけばよいのでしょうか。組織論、経営戦略論の研究者である宇田川元一さんにお話を伺いました。
前編に続いて今回は、これからの時代に合わせて組織を再編していくために必要な“対話”とは、一体どのような行為なのか……具体的なエピソードを交えながら詳しくお伝えします。
宇田川元一(うだがわ・もとかず)。埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授。1977年東京都生まれ。長崎大学経済学部准教授、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。専門は経営戦略論、組織論。社会構成主義を思想基盤としたナラティヴ・アプローチの観点から、イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行なっている
モーセと神から学ぶ、“対話”の実用性
WORK MILL: ここまでのお話で、なぜ今になって社会的に「働き方改革」の必要性が叫ばれ始めたのか、なぜ「働き方改革」がなかなかうまく進まないのか……それらの背景をご説明いただきました。
先生はその上で「会社組織が今まで見えないふりをしてきた問題(≒多義性の認知の問題)と向き合うには、“対話”が不可欠だ」と指摘されましたが、それはどういう意味なのでしょうか。
宇田川先生: 認知の限界を打ち破るために対話が必要――このことを具体的に例示してくれるお話が、実はユダヤ教・キリスト教の(旧約)聖書の中にあるんです。それは「出エジプト記」の、モーセがユダヤ人を率いてエジプトを脱出するエピソードなのですが。
WORK MILL: あの、海を割って道を開いたお話で有名な?
宇田川: そうです。このモーセのエピソード、よく読むと実に企業組織や社会の変革のリーダーシップの物語のようで、私は結構好きなんです(笑)。
簡単に解説すると物語の舞台は、紀元前17〜13世紀ごろのエジプトです。ユダヤ民族は干ばつや飢饉(ききん)のために故郷イスラエルを離れ、エジプトに大移動しました。移動してきた当時のエジプトの王はユダヤ人たちを快く受け入れましたが、代替わりして別の王になると、彼らを奴隷として扱うようになりました。
ユダヤ人たちは、もちろん奴隷をさせられていることに不満を持ちます。ただ、奴隷の生活は不自由ながらも、寝食に困ることはなかった。なので、文句はあれども事は荒立てず、大人しくエジプトで暮らしていました。
WORK MILL: 彼らにも「満足化基準」が働いていたと……。
宇田川: そんな中、ある日モーセのもとに神(ヤハウェ)が現れて「迫害されているユダヤ人たちを率いてエジプトを脱出し、約束の地カナンに連れていけ!」と命ぜられます。
WORK MILL: モーセはその命令に従って、次々と奇跡を起こしていくんですよね?
宇田川: いえ、実はそんなに素直に従ったわけでなくて、むしろ始めは「無理ムリ!」と断るんです(笑)。先ほど説明したように、ユダヤ人たちは現状の暮らしにそれなりに納得していることを、モーセは知っていた。
そこでユダヤ人たちに脱出しようなんてけしかけたら、当然エジプト人からは報復されるかもしれないし、ユダヤ人たちからも「余計なことをするな」と疎まれるかもしれない。「リスクしかないじゃないか、嫌だよ!」と神に言うんですよ、モーセは。
WORK MILL: すごく人間味がありますね(笑)。
宇田川: そこから、モーセと神の“対話”が始まるんです。神は何とかモーセに動いてほしいから、話をしながら一つずつ、モーセの懸念を解消しています。
モーセが「私は弁が立たないから、皆言うことを聞かないよ」と言ったら、神は「大丈夫だ、お前には相棒のアロンがいるだろ。アロンは口が上手いから、そのへんはアイツに任せればいい」と返す。
「いや、話し上手なだけじゃ皆を説得しきれない」とモーセが弱音を吐けば、神は“モーセの持つ杖が蛇に変身する”という奇跡を彼に授けて、「これを見せれば皆も信じるから!」と彼を諭す。「それでも無理だよ!」「じゃあ奇跡をもう1つ!」……みたいなやり取りが続いて、ようやくモーセは動き出すんですよ。
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