「分かり合えないのは当たり前」――組織に必要な“対話”の在り方は?:経営学者・宇田川元一さんに聞く(4/4 ページ)
これからの時代に合わせて組織を再編していくために必要な“対話”とは、一体どのような行為なのか? 組織論、経営戦略論の研究者である宇田川元一さんが具体的なエピソードを交えながら詳しくお伝えする。
親睦でもなければ、指導でもない――自分を改めるための“対話”を
WORK MILL: 働く現場では、とりわけ上司と部下の意思疎通が足りていないことで、さまざまな問題が起きていると感じます。現場レベルで“対話”を試みる際に、私たちが気を付けなければならないことはありますか?
宇田川: まずは、“対話”を“親睦”と履き違えないこと。ワークショップで和やかに、模造紙なんかを囲んで皆でワイワイとやったりする……というのは“親睦”です。それはそれで重要ではありますが。
そうじゃなくて“対話”というのは、認知の枠の外にあるモヤモヤしているもの、不愉快に思うものの存在を受け入れ、そこに意味を見出す実践です。見たくない、見せたくないものも開示して現状の問題を確認し合う。そこで初めて、自分たちが一緒に目指せる、目指すべき新しい物語が見えてきます。
WORK MILL: 目指すところが見えれば、そこに向かって具体的な課題を挙げ、目標も立てられると。
宇田川: 間違ってはいけないのは、“対話”は決して「指導の場」ではありません。これは、上の立場の人間が無意識にやりがちです。“対話”は、相手を改めさせる場所ではない。自分が改められることを通して、相手と今までにない無二の関係を築いていく営みこそが、“対話”なのです。
WORK MILL: だからこそ、耳の痛くなるような話こそ、積極的に聞いていくべきなのですね。
宇田川: あともう一つ、“対話”をするにあたって心掛けておくといいかな、と思うことがあります。それは、「話し合いによって、必ずしも分かり合えることばかりではない」ということです。自分が苦しくて「これ以上はムリ」だと思ったら、そんな自分も認めてあげてください。我慢をしすぎることは、自分に対して失礼なのです。
耳の痛くなるような話をし合って、落としどころが見つかったら素晴らしい。けれども、お互いの正しさがぶつかって、それができない場合だって当然あります。実際には「どちらかが一方的に間違っている」といったケースの方が珍しいでしょう。焦ってはいけないのです。
WORK MILL: 「分かり合えなくても、それが当たり前」という心構えを持っていると、話し合いのスタンスも大きく変わってくる気がします。
宇田川: 劇作家の平田オリザさんは著書『わかりあえないことから』で、「お互いが“わかりあえていないこと”に同意している状態が、対話にとって大事だ」と指摘しています。私たちは一人一人が、全然違う人間です。違うからこそ、分かり合える部分を探したり、分かり合えないままでも共存できる落としどころを見つけたりするために“対話”をするんです。
集団として目指す方向は共有しながらも、社員がそれぞれの違いを認め合った上で、その違いを尊重し、生かし合っていけるのが良い会社組織です。そういった状態を、“対話”によって目指していければよいのではないかなと、私は考えています。
中編はここまで。最後となる後編では、これからの組織に必要なリーダーシップの在り方や、一人一人が挑むべき課題、その挑戦を支えるためのコミュニティーについてなど、さまざまな話題でさらに盛り上がります。
参考文献―話題に上がったトピックについてさらに詳しく知りたくなったら
モーセのエピソードについて
(関根正雄訳、『旧約聖書 出エジプト記』岩波文庫)
権力の構造について
ミシェル・フーコー(田村俶訳、『監獄の誕生』新潮社)
「ナラティヴ・アプローチ」について
マイケル・ホワイト(小森泰永訳、『物語としての家族』金剛出版)
ケネス・J・ガーゲン(東村知子訳、『あなたへの社会構成主義』 ナカニシヤ出版)
“対話”のスタンスについて
平田オリザ(『わかりあえないことから―コミュニケーション能力とは何か』講談社)
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