2018年に乗ったクルマ トヨタの「責任」とスズキの「義務」:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
この1年間に試乗したクルマで、特筆すべきクルマが6台ある。今回はトヨタのクラウン、カローラ・スポーツと、スズキのジムニーについて言及する。
トヨタ・クラウン
走行性能から見たクラウンはとても良くなった。大きく見て要素は2つある。
2.5リッターのハイブリッドは恐らく現在のトヨタのベストパワートレーンであり、飛び抜けた静粛性を軸に、微速制御から加減速制御、全力加速時の動力性能まで含めて素晴らしいユニットだと思う。それは従来の「ドライバーの加減速指令に従わない」ハイブリッドのイメージを大いに挽回し、内燃機関のみのパワートレーンより優れたフィールを持つものと再定義させるだけのユニットになっている。
もう1つはトヨタ肝いりの新型シャシーである。TNGA世代となったこのシャシーは、ステアリングを通してフロントタイヤの接地感が素晴らしく精密に描写される。クローズドコースで限界まで攻めても、安心できるその走りは見事なものだ。にもかかわらず、日常速度での乗り心地は穏やかでまろやか。可能なら大径ホイールと扁平タイヤを履くRSよりも素のモデルを味わっていただきたい。
この大きな2点以外でも、従来のクラウンからするとシートの進歩は大きい。多くの人を幸せにするという意味では高評価である。
しかし、世界中のプレミアムセダン全体の中でこのシートを素晴らしいと言えるかというと、残念ながらまだまだと言わざるを得ない。つまりクラウンとしては過去最良であるが、それでもライバルの中で最良ではない。では、何のシートを良いというのだと言われればボルボV60のシートを挙げておく。あれと並ぶシートが出来るようになったら、クラウンは世界のクラウンになるかもしれない。
クラウンを選びたくなる理由で一番大きいのはレーントレーシングアシスト(LTA)だ。高速道路を巡航中に右カーブにさしかかったとする。そのときドライバーは右に適宜ハンドルを切るだけで良い。あとはLTAが微調整を全てやってくれる。
現在の多くのクルマのステアリングアシストは、最初のステア操作をクルマがやってくれるだけで、その後の微細な調整は結局ドライバーがやらないとキレイに走らない。それでは意味がない。しかしクラウンの場合、それが逆で、おおよその舵さえ当てれば、あとはクルマの方で微調整してくれる。自動運転ではないのでハンドル操作は必要だが、そこに強い集中力を求められない。その分を周囲の安全確認などに振り向けられる。そして当然ながら長距離ドライブで圧倒的に疲れない。高速移動を多用する人ならば、LTAの魅力は相当に高い。
あとは先に述べた通りシートのさらなるレベルアップと内外デザインの向上だろう。新型クラウンに対して、もう1つだけ苦言を呈すれば、リヤの居住性の低下だ。特に後席の頭上空間は圧迫感が強く、少なくとも健康的なセダンとは言えない。トヨタとしては世界のトレンドを見て覚悟の上でやったことだが、あのクラスの後席優先国産セダンで最後の砦だったクラウン・マジェスタの顧客層の行き場がなくなってしまった。
参照記事:え!? これクラウンだよな?
関連記事
- え!? これクラウンだよな?
トヨタのクラウンが劇的な進化を遂げた。今まで「国産車は走りの面でレベルが低い」とBMWを買っていた人にとっては、コストパフォーマンスがはるかに高いスポーツセダンの選択肢になる可能性が十分にあるのだ。 - 2018年に乗った特筆すべき日本のクルマ(前編)
2018年もいろいろなクルマの試乗会に行った。もちろん全ての試乗会に呼ばれるわけではないので、あくまでも筆者が試乗した範囲で「特筆すべきクルマ」について振り返りたい。前後編で6台の日本のクルマを紹介する。 - ジムニー 評判通りの楽しさ
スズキのジムニーは存在そのものが人を楽しくするクルマだ。その新型を1週間試乗してみた。実は走り出してすぐの印象はそう良くもなかったのだが…… - あなたはカローラの劇的な変貌を信じるか?
カローラ・ハッチバックのプロトタイプ試乗会のために富士スピードウェイの東コースへ訪れた。そこで目の当たりにしたのはカローラの劇的な変貌だった。 - トヨタがスープラを「スポーツカー」と呼ぶ理由
長らくうわさのあったトヨタの新型スープラが、年明けの米デトロイトモーターショーで発表されることになった。今回はそれに先駆けて、プロトタイプモデルのサーキット試乗会が開催された。乗ってみてどうだったか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.