なぜLGBT後進国ではダメなのか 「国つぶれる」発言を覆す“伝説のスピーチ”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(5/5 ページ)
「同性婚が認められないのは違憲」として、10組の同性カップルが集団訴訟を起こす。先日、平沢勝栄議員が「国がつぶれる」と発言したことからも分かるように、日本は「LGBT後進国」。“自分と違う人”を尊重できる社会になるのか。そのヒントとなる「伝説のスピーチ」とは……
「自分と違う人」を尊重するのが“生きやすい”社会
私は「こういうのっていいよね」と素直に思います。冒頭の原告団も、ウィルアムソン氏のスピーチも、ケンワージー選手のキスも、「いいんだよ、それで。自分を信じなさい」というメッセージです。
「自分の行動や考え方を自己決定できているという感覚」は、健康社会学で「autonomy(自律性)」と呼び、自分を信じる力は何ごとにも優る生きるエネルギーを引き出します。
今の日本社会は、私が子どもだった頃より、人生における選択肢が確実に増えました。ところが、それでもなお、社会には「これが正解!」があふれ、正解から外れると「負け組」と排除されたり、集団リンチのように批判されたり、ちょっとでも失敗すると「自己責任」が問われたりしがちです。
LGBTの問題も、根っこは同じだと思うのです。「もちろん自分とは違う人を好きになれないのは分かります。でも、なぜ反対する人がいるのか分かりません」という名言の通り、「自分と違う人」を良いとか悪いとかではなく、ただただありのままを受け入れることが成熟した社会であり、あいまいさを許容することが成熟した大人であり、自分と違う人を尊重することが「生きやすさ」になっているのではないでしょうか。
今年もさまざまな角度から社会問題を取り上げ、ぶつかることを恐れず発信していきますので、お付き合いいただければうれしく存じます。
いい一年になることを祈って……。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)
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