アメコミの巨匠スタン・リー 知られざる「日本アニメに見いだした夢」:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(2/6 ページ)
2018年に亡くなったアメコミの巨匠スタン・リー。実は晩年、日本のアニメ・マンガを積極的に手掛けていた。異国のコンテンツビジネスに見いだした夢とは。
「シャーマンキング」の武井氏とコラボ
コミックでは、集英社とコラボレーションしている。『機巧童子ULTIMO』である。原作をスタン・リー、作画は「シャーマンキング」で米国でも人気の武井宏之氏が担当。08年から日米で展開し、ジャンプの米国攻略の一端を担っていた。連載は15年まで続き、全12巻とボリュームのある作品となった。
11年には『Blood Red Dragon』が発表されている。日本のアーティスト YOSHIKIをモデルに音楽をコンセプトにしたスーパーヒーローのミニコミックシリーズである。発表時には映像化を目指すとしていたが、YOSHIKIのプロモーションの面が強く、その後の展開はない。
一方で実現しなかったプロジェクトもある。2000年半ばスタン・リーの企画開発・制作会社POW!Entertainmentには「QUARTZ」という作品が掲げられていた。日本のアニメスタジオのGDH(09年にゴンゾと合併)との共同プロジェクトとされたが、その後言及がない。GDHの経営悪化とともに立ち消えたようだ。
池上遼一版マンガに特撮も 昭和のスパイダーマン
スタン・リーと日本の関わりは、実はかなり古い。1960年代に「スパイダーマン」の人気が早くも伝わり、1978年の『スパイダーマン』(光文社)を皮切りにマーベル・コミックのスーパーヒーローは同社より次々に翻訳出版された。
さらに驚くのは、これに先立つ70年にはマーベルよりライセンスを得た日本独自の「スパイダーマン」が『月刊別冊少年マガジン』で連載を開始していることだ。後に『男組』『クライング フリーマン』などで知られることになる池上遼一氏が手掛け、SF作家の平井和正氏が原作に参加した。池上氏らしい流麗なタッチの哀しみを背負った主人公が登場する独自の世界観に仕上げた。
また78年には特撮番組「スパイダーマン」が東映で制作されテレビ放送された。こちらも独自のストーリーと世界観を持ち、巨大ロボットが登場するなど日本の特撮としてアレンジされていた。
いずれもスタン・リーがマーベル・コミックの編集部で積極的に仕事をしていた時期にあたる。しかしこれらの作品のクリエイティブには関わることがなかったようだ。完成後に作品をみた程度と想像される。
しかし日本とのビジネスが深まる中で、72年にスタン・リーは初来日している。そこで日本がエンタテインメントの巨大な消費地で、生産地でもあることは知ったに違いない。
ちなみにスタン・リーは最晩年にも来日している。2016年に開催された東京コミコンに名誉親善大使として訪れ、翌17年も同じく東京コミコンに94歳でゲストとして来日した。その際にはステージトークを繰り広げたほか、日本外国特派員協会で記者会見をするなど元気な姿を見せていた。筆者が調べた限りだが、この17年の東京コミコンがスタン・リーの最後の海外ビジネス渡航であったと思われる。
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