アメコミの巨匠スタン・リー 知られざる「日本アニメに見いだした夢」:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(3/6 ページ)
2018年に亡くなったアメコミの巨匠スタン・リー。実は晩年、日本のアニメ・マンガを積極的に手掛けていた。異国のコンテンツビジネスに見いだした夢とは。
スタン・リー最後の独自ヒーロー「ザ・リフレクション」
スタン・リー最後のオリジナルヒーローも日本と深く関わっている。「ザ・リフレクション」である。
全世界におきた謎の大災害「リフレクション」。この災害に接し生き残った者たちは特別な能力を持つ特別な存在「リフレクティッド」になった。それが大量のヒーローとヴィラン(敵役)を生みだすことになる。
全12話の短いシリーズだが、国内で圧倒的なネットワークを持つNHK総合でのオンエア。また週末の夜である毎週土曜午後11時からの放送時間には日本の制作者の意気込みが感じられる。原作にはスタン・リーと並び監督も務めた長濱博史の名前が共同クレジットされている。
“スタン・リー“の名前の大きさや年齢から、その知名度に期待した名前貸しと思う人もいるかもしれない。しかし数々の長濱氏のインタビュー、発言からは創作にあたりかなり密なコミュニケーションが取られたことが分かる。10年の「HEROMAN」も同様の密なコミュニケーションがとられていた。
スタン・リーが作品のどこまでを主導したか線引きするのは難しい。しかし1960年代の頃からスタン・リーの創作の主要な部分は、物語のアイデアと基本的なプロット、そして討論による作品のクリエイティブのアップグレードにあった。両作にスタン・リーは積極的に関わったと考えていいだろう。
POW!Entertainmentはスタン・リーの死後も、彼のアイデアをもとに複数の作品を開発中である。今後もスタン・リーの名前を掲げた新作が登場するかもしれない。しかしスタン・リーがコミュニケーションをしながら作品を制作した点では、2017年発表の日本アニメ「ザ・リフレクション」こそが、スタン・リー最後のオリジナルヒーローと言っていいだろう。
さまざまな能力を持ったヒーローが次々に飛び出す「ザ・リフレクション」は、「アベンジャーズ」的、あるいはDCコミックの「ジャスティス・リーグ」的でもある。
もともとスタン・リーには、そうした独自のヒーロー世界(ユニバース)を作りたい気持ちが大きかった。それは自身が生み出したマーベル・ユニバースがマーベルの保有物で、いまとなっては手を出せないこともあったかもしれない。新たなユニバースを創ったことでも、「ザ・リフレクション」はスタン・リーのキャリアの中で重要な一つだったのでないだろうか。
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