コラム
元日銀マンが斬る 厚労省の統計不正、真の“闇”:地に落ちた政府統計(3/6 ページ)
厚生労働省の「毎月勤労統計」が炎上している。これに関する不正をかばうものはいないだろう。誰の目に見ても明らかな不正である。しかしこの問題には深い「闇」があるのではないかという。
567億円が宙に浮いた
何をどのように偽ったか(What、How)は、分かった。15年にわたって不正を行っていたという時間(When)も分かった。
賃金水準が相対的に高い東京都のシェアが過少推計されたので、全国の賃金の推計結果も低く推計された。毎月勤労統計は労働保険の給付金を算定する基礎資料になるので、長年にわたって、雇用保険(失業保険を含む)や労災保険といった労働保険の給付額が少なくなったのだ。
影響を被った人数は1973万人、金額は567億円におよぶと見られる。過少推計のせいで、政府が本来支払うべき567億円は支払われなかったことになる。原因(Cause)も結果(Result)も、厚労省の報告ベースであるが判明した。
実行責任者(Who)も官報や各種媒体の人事情報を追えば、この事件の全容がある程度は判明する。
誰のために、なぜ不正が?
問題は、誰のために(for whom)、なぜ(why)、このような不正を行ったかだ。一般的に言って、今後の不正防止・再発防止には、原因究明は重要な意味を持つ。政府統計の信頼回復にとっても、本来であれば、意味がある。
だが、筆者はどんなに調査を進めても、多くの真実は明らかにならないのではないか、と悲観している。
政府統計全体の問題として、統計部門の予算も人材も不足しているという構造的な課題が放置されている。統計部署が軽んじられているのだ。問題の根深さを確認するためにも、政府統計の歴史を少し振り返りたい。
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