クイーン「ボヘミアン・ラプソディ」に見る良きリーダーシップとフォロワーシップ:大ヒット映画から学ぶ(3/3 ページ)
大ヒットとなった映画「ボヘミアン・ラプソディ」。今回はこの映画に描かれた人間模様を題材に、リーダーシップとフォロワーシップについて考えてみます。
クリティカル・シンキングと関与度からフォロワーシップを考える
フォロワーシップにもいくつかのフレームワークがありますが、ここではロバート・ケリーの提唱したモデルで4人のメンバーのフォロワーとしての質をプロットしてみました。
この図からも、多少の濃淡はあるものの、全員が高いフォロワーシップを発揮できることが分かります。皆がリーダーシップをとれ、また皆がフォロワーシップもとれるところが、クイーンというバンドの大きな特徴でしょう。
映画の後半で、ソロ活動でフラストレーションをため、他のメンバーにクイーンに戻りたいと乞うマーキュリーが次のような趣旨のセリフを残します。
「ミュンヘンでミュージシャンを雇ってレコーディングしたが、彼らは全然なっていない。ダメなところにダメと言うこともないし、フィードバックもない。言われたことをやるだけだ。自分はホーム(クイーン)に戻りたい」
つまり、マーキュリーほどの天才でも、メンバーのフォロワーシップが貧弱で、さらには状況によってリーダーシップをとってくれないようでは、良い仕事はできないのです。
ちなみに、グーグルの研究による「生産性の高いチームの条件」では5つの要因が指摘されていますが、その最重要な2つは心理的安全性(多少リスクの高い突飛な行動をしても、このチームなら大丈夫だと信じられる)と相互信頼(特に他のメンバーの力を認めあっていると生産性が高くなる)です。マーキュリーはもちろん、他のメンバーにとっても、クイーンはこの条件を満たし、自分の価値を最大限に高められるクリエイティブな場だったのです。
これまでのヒエラルキー組織からチーム重視へと組織のあり方が変わっていく中で、クイーンというバンドはビジネスパーソンにとっても非常に参考になるのではないでしょうか。
なお、本稿では書けませんでしたが、ダイバーシティとインクルージョン、アートとサイエンスの融合といった側面でもクイーンは非常に興味深いバンドです。
著者プロフィール
嶋田毅(しまだ つよし)
グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長
東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブック?』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。
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