大阪人は食べていなかった? “串かつ業態”ブームの真相:長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/6 ページ)
串かつ居酒屋チェーン「串カツ田中」の業績が好調だ。ライバルの「串かつでんがな」や「串家物語」も店舗数が増えた。串かつ業態がブームとなっている背景とは?
「串家物語」というライバル
串カツ田中が、大阪地場の串かつ専門店とはずいぶんと異なった業態であることを述べてきた。串カツ田中は、禁煙化によって顧客層が変わり、ファミリー層が13.4%から20.8%に増え、会社員・男性グループが31.1%から24.1%へと減った。
子ども向けメニューとして、親子でつくれる「手作りたこ焼きセット」、セルフでトライするソフトクリームなどを導入し、強化している。両メニューは小学生以下無料。他にもお子様ランチのような「おこさまプレート」、ソフトドリンクを注文した未成年客が店員とジャンケンして勝ったら無料、あいこで半額の「子供じゃんけんドリンク」も実施。
これまでも、プレミアムフライデーでは月の最終金曜だけでなく、最終週全てをキャンペーン期間にして割引を実施。多くの飲食店が「売り上げに効果がない」と訴えているプレミアムフライデーで、実績を上げてきた。禁煙化でも同じ要領で、串かつ全品100円セールなどを2週間もの長期で実施して、非喫煙者の集客に成功している。
そこで新たな競合となってきているのが、フジオフードシステムが展開するセルフ串揚げ食べ放題「串家物語」である。このチェーンはイオンモールなど商業施設に強く、東北や北陸などを除く全国に112店を展開している。串カツ田中のセルフでつくるメニューは、串家物語を意識していると思われる。
巧妙な宣伝手法で全国1000店を目指す
串家物語は自分で串を揚げるから顧客が楽しいと感じている。さらに、カレーやパスタ、サラダ、デザートのチョコレートファウンテン、ケーキなども食べ放題である。値段は店によって異なるが、90分でランチ1600円、ディナー2700円くらいである。子どもは半額ほどだ。休日のランチは70分に時間が短縮され、値段も100円上がるケースがあり、時間が短くてゆっくりできないといった顧客の不満を結構聞く。
串家物語は串カツ田中が禁煙化にシフトした18年6月、既存店売上高(国内直営)が前年比85.3%まで落ち込んだ。同年7月には西日本豪雨の影響もあり、81.6%に落ちた。ファミリー客が串カツ田中に流れたと思われる。
串家物語はパンケーキなど新メニューを投入し、18年9月にはネット予約をした顧客限定で948円(税抜)で食べ放題にするなど、割引キャンペーンを実施。同月は102.1%と前年以上の実績に戻した。
串カツ田中は大阪名物の店をうたいつつも、新世界の店と全く異なるマーケットを創出した。居酒屋と食堂の中間のような新タイプのファミリー居酒屋である。田中副社長は大手広告代理店出身、父の影響で自身も大の串かつ好きという。その田中家の食習慣をもとに業態を最適化し、広告代理店で培った巧妙な宣伝手法で、全国1000店を目指しているのだ。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
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