地方の有力スーパーが手を組んだ“1兆円同盟”誕生、イオンとどう戦う?:小売・流通アナリストの視点(4/5 ページ)
2018年末、食品スーパー業界では久々の大型再編となる「新日本スーパーマーケット同盟」の結成が発表された。地方の有力スーパーが手を結び、売り上げの単純合計で1兆円を超えたのだ。
したたかな外交策
丸久というスーパーは、「外交」の面でも驚くべき柔軟性と大胆さを持った企業である。業績が安定してきた05年には、中・四国・九州でゆめタウンを展開する有力総合スーパーのイズミと資本業務提携した。しかし、15年には同じくイズミと提携していたマルミヤストアとともにリテールパートナーズを結成し、同年、イズミとの提携関係は解消した。
この連載でも以前紹介したように、イズミは中・四国・九州において、イオンにガチンコ勝負を挑みつつ、成長を続ける西日本流通業界の雄である。丸久にとっては再建を成し遂げた後の10年間を、この会社と事を構えなかったのは、地元におけるトップシェアを固める上で極めて有効であったことは間違いない。山口県における丸久のライバルは、事実上、イオン傘下のマックスバリュ西日本であり、病み上がりの状態でイオン、イズミの両雄と対峙していれば、丸久がリテールパートナーズとして、「同盟」に参加している今はなかったであろう。
リテールパートナーズは結成後、17年には九州の有力スーパーではあるが若干伸び悩み気味であったマルキョウを仲間に入れることで、地域での最有力グループとなり、「同盟」への参加資格を確立した。イズミとの関係には、複雑な事情があったのであろうが、結果としてみれば、経営破たん寸前の時代から再建を果たし、さらには極めてしたたかな外交を経て、イオン、セブン&アイ(イズミはセブンの同盟者)に次ぐ第三極の主要メンバーに名を連ねるまでになったのだ。
新日本スーパーマーケット同盟は、店舗網が重複しない、離れたエリアのスーパーの連合体だ。そのため、物流単位の地域内シェアが重要視される日本の商習慣の下では、同盟の直接的な業績に関わるようなメリット(問屋からの仕入れが飛躍的に安くなるなど)は想定し難いという。実際、これまでの食品スーパー業界の再編は、商圏が重複したり、隣接する企業間がほとんどであり、こうした遠隔地の企業同士の組み合わせはなかった。
それでも、こうした同盟が結成されたのはなぜか。「食品スーパーマーケットとして共通の課題への適切な対処や、ビジネスモデルの革新につなげていくこと」を目的とするとプレスリリースされているが、確かにお題目ではないだろう。EC(電子商取引)への対応、キャッシュレスへの対応、店舗のデジタル化、ビッグデータのマーケティングへの活用など今後の小売業が取り組むべき新しい課題への対応は、これまでのような地域企業単位で解決できるレベルの話ではない。それどころか、業種、業態などを超えて、リアル店舗小売業に共通の課題であり、さらに言えばコンシューマービジネスに関わるものすべてにとっての課題と言えるかもしれない。技術革新によって、業界環境は再び大きく変わろうとしている。
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