“ニッポン漁業”は成長できるのか?:70年ぶりの法改正(2/3 ページ)
2018年12月の臨時国会で、70年ぶりとなる改正漁業法が成立した。同法案の改正は、企業の新規参入を促すなど、漁業を成長産業につなげるための第一歩となるのだ。
また、現在多くの漁業大国では、漁獲量をコントロールする方法として個別割当(以下、IQ:Individual Quota)方式が導入されており、漁業者(漁船)ごとに漁獲可能量が割り当てられている。
その漁獲量枠の下、いかに低コストで出漁し、高価格で出荷するかという経済合理性により生産性向上へとつながった。一方、日本では、漁獲可能量が設定されているのは8種だけである。その対象魚種においても、全体での総漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)のみが決められているだけで、IQは設定されていない。そのため、日本の漁業では、効率が悪くてもいかに他に先んじて出漁し多くを出荷するかとうインセンティブにより生産性が押し下げられ、乱獲競争へとつながってきた。
乱獲競争は生産性を低下させるだけでなく、水産資源の減少へとつながる。日本の漁業生産量は、1984年から減少に転じ、現在はピークの約3分の1にとどまる。対して、同期間での世界の漁業生産量は約2.6倍と対照的だ(図表2)。
日本だけが、1人負けの状況だ。世界の漁業大国が資源管理を適切に行い水産資源の維持に努めてきた一方、日本は乱獲により資源を減少させてしまったことが主因であると指摘されている。
今回の漁業法改正により、ようやく日本においてもIQ方式が導入される。資源管理を強化し、水産資源を回復させるとともに、企業の参入により適切な資本投入、競争を促すことで漁業の生産性向上へとつながることが期待される。
また、漁業権を企業へ開放する背景には、養殖業を発展させたいという狙いもあるようだ。世界の養殖業の生産量は、1984年から現在にかけて約11倍にまで増加し、漁業生産量全体に対する割合は54.5%と半分以上を養殖業が占める。一方、日本においては、養殖業の生産量についても減少傾向が続く(図表3)。養殖業の割合自体は、漁業全体の生産量の減少に伴い24.6%に上昇しているものの、世界と比べると低い。個人経営体が多い日本では、大規模な設備が必要な養殖場を作ることが難しい。
人材や資本が厚い企業にも漁業権を与えることは、養殖業の発展に寄与することが期待されている。
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