外資系証券で6000万円使って分かった接待の極意:「お金」と「仕事」の本当の話をしよう(2/4 ページ)
顧客と信頼関係を築く手段としてに欠かせない接待。筆者は外資系証券会社に在籍していた際に通算580回の接待をした。合計6000万円近くを使って見えてきた接待の極意とは?
なぜ10分前に入店するのか
会社の上層部に承認をとり、この日使う30万円の接待費は確保済だ。私はそそくさと「午後6時50分」に入店する。「午後6時55分」に入ると、遅刻しないように早めに来てくださる顧客を待たせるリスクが高まるし、「午後6時45分」に入ると「なんかこいつ必死だな」と見抜かれ、私のテンポが狂うからである。
この日は1人7万円する金沢料理を食べることになっていた。「何がお好きですか? 私がお店を予約します」などと相手に尋ねるのはもちろんアウト。相手を恐縮させるだけだ。普段の業務でやりとりする際に、食べたランチのメニューなどをさり気なく聞き、「和食が好みか」「タイ料理は好きでもパクチーは苦手なのか」といったことを、将来の接待に備えて頭にたたき込んでおく。
接待に使うのは、照明がやや暗くて落ち着いた雰囲気の店だ。また、対面で座ると人間の心理として敵対心が芽生えやすく、目線のやり場にも困るので、カウンター席を用意してある。
私はまず、自分の仕事やプライベートのことを話し、相手をリラックスさせる。席に着くやいなや、顧客の近況を根掘り葉掘り聞くと、どうしても尋問するような雰囲気になり、相手の緊張をあおることになってしまう。
だからまず、自分の話をする。同時に、会話の途中に不自然でない程度の間隔をあけ、相手にリアクションするチャンスを残す。話が盛り上がるなかで、自分にとって都合のよいリアクションを拾って、自然に仕事の本題に切り替える。
ポイントは「高級料理よりも信頼感」
互いの家族の話をして、学生時代のクラブ活動やいままでお付き合いした異性の数とタイプ、そして個人的な悩みなども共有し、少々は自分の会社の愚痴も言い合う仲になれば、この時点で、自分と相手だけの特別な信頼関係が構築される。
誤解する人がいるが、接待とは高い食事をごちそうしてその見返りを期待する行事では決してない。「大事な情報を渡したり、発注したりしても、この人なら下手なことはしないはず」という信頼感を醸成する営みが接待だ。その意味では、相手に「接待されている」と思わせない接待こそ、最高の接待といえよう。
2軒目は、歩いていける静かなバーを予約してあるので、頃合いをみて1軒目の精算だ。ただし、目の前でお会計する姿を見せつけるほど、興ざめな行為はない。
顧客がトイレに向かった隙に会計をする一般的なやり方は、私の中では危険なNG行為だ。もし、店員がクレジットカードを決済するのに手間どってしまうとしよう。その間に顧客が席に戻ってくると、相手が気まずい思いをしてしまうからだ。
そこで、私は追加のドリンク注文が一巡した段階で、自らトイレに立つ。通りすがりの店員にカードをしれっと渡し、「サインや暗証番号の入力は、トイレの簾(すだれ)の向こうで」と耳打ちするのだ。高級料理店のスタッフなら、ほぼ間違いなく応じてくれる。もし無理なら、私は客席からは死角となる厨房に乗り込んで、精算する(もちろん、店側には丁重に許可を得る)。
お店を出るときも、私は見え透いたうそでもいいから、「ここはうちの親戚の店なんで、私が来るとタダなんです」と話す。相手は「3軒連続で親戚のお店なんて、活躍されている一家なんですね」と返してくるが、それくらいの愉快な押し問答でスマートにそのシーンを乗り越える。
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