AIに職を奪われないための「メタ能力=能力をひらく能力」:人間のAI化が問題(2/4 ページ)
AIが人間の職を奪うかどうかの議論において真の問題は、AIの高度化ではなく、むしろ人間のAI化です。つまり、人間がAIと同じ土俵に下りてしまっていて、物事の処理能力で競走をすることです。それを防ぐのは能力の高次化ではないでしょうか。
ある能力には長けていても……
組織の中には、特定分野の知識が豊富な人、ある処理技能に長けた人、修士号や博士号を修めた人、利発的でIQの高い人などがいます。しかし、そうした人たちが必ずしも仕事で高い成果をあげたり、独創的な提案をしたりするわけではないことを、私たちはいろいろと見聞きしています。
「タコ壺(ツボ)的に深い知識があるがそれを他に展開できない」
「言われた作業は器用に処理できるが、何か新しい仕事を創造することは苦手である」
「才能に恵まれているのに、何かと組織への不満を言い、自分ごとで取り組まない」
こうした人たちは、いわば「能力がありながら、能力がひらけない/ひらこうとしない」状態に陥っています。もっと厳しく言えば「ある次元の能力保持で満足していて、それより高い次元での能力発揮に怠けている」。なぜこういう停滞が起こるのか――それを考察するために、私が持ち出したいのが、「メタ能力」という概念です。
メタ能力の「メタ(meta)」とは「高次の」という意味です。例えば心理学の世界では、「メタ認知」という概念があります。メタ認知とは、認知(知覚、記憶、学習、思考など)する自分を、より高い視点から認知するということです。それと同じように、本稿では「能力をひらく能力」として「メタ能力」というものを考えます。
【I次元能力】能力をもろもろ保持し、単体的に発揮する
「〇〇語がしゃべれる」「数学ができる」「記憶力が強い」「幅広い知識がある」「文章力が優れている」「表計算ソフト『エクセル』の達人である」「〇〇の資格を持っている」「運動神経が鋭い」「論理的思考に長けている」――これらは単体的な能力・素養です。これらを発揮することがI次元ととらえます。
【II次元能力】能力を“場”にひらく能力
私たちは仕事をするうえで、能力を発揮する「場」というものが必ずあります。例えば、家電メーカーの営業部で働いているとすれば、その営業チームという職場、営業という職種の世界、そして家電という市場環境。一般社員であるか管理職であるかという立場。これらが「場」です。そして場はそれぞれに目標や目的を持っています。
私たちは、もろもろに習得した知識や技能(=I次元能力)を、「場」に応じてさまざまに編成し、成果を出そうと努めます。このI次元能力の一段上から諸能力を司る能力が、II次元能力です。俗に言う「仕事ができる人」というのは、単体の能力要素をただ持っている人ではありません。どんなプロジェクト、どんな職場、どんな立場を任せられても、I次元能力を自在に組み合わせて、着実に成果を出せるという人間です。
単に「〜を知っている」「〜ができる」というレベルと、場の要請を感じ取り、それに応じた成果を出せるというレベルは明らかに違います。この違いこそ、I次元能力とII次元能力の違いです。
関連記事
- あなたは大丈夫? 10〜20年後、人工知能に奪われる仕事100
人工知能によってあなたの仕事が奪われるかもしれない――。このような不安を感じている人も多いのでは。ある調査によると「労働人口の49%が人工知能などによって奪われる」という結果がでたが、この数字をどのように受け止めればいいのか。 - 7割が「課長」になれない中で、5年後も食っていける人物
「いまの時代、7割は課長になれない」と言われているが、ビジネスパーソンはどのように対応すればいいのか。リクルートでフェローを務められ、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いた。 - 今からでも遅くない? 年収200万円と800万円の分かれ道
サラリーマンの給料が減っていく――。このような話を聞くと、不安を感じる人も多いのでは。人口減少などの影響を受け、大幅な経済成長が見込めない中で、私たちはどのように仕事をしていけばいいのか。リクルートでフェローとして活躍された藤原和博さんに聞いた。 - 幸楽苑がAIを本格活用へ 何をどう役立てるのか
異物混入事件で業績が低迷していた幸楽苑HDが、矢継ぎ早に改革を打ち出し、客足が戻りつつある。1月28日の記者会見で新たにAIを活用すると発表したが、どのような戦略なのだろうか。
関連リンク
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.