「無人コンビニ」は日本で誕生するのか 隠された論点に迫る:焦点は「IT化」だけではない(3/3 ページ)
世界中で話題の「無人コンビニ」。日本でまだ本格展開していないのはなぜか。コンビニ各社や専門家に聞いた。
従業員削減は客の利益になるのか
業務のすべてを無人化するのではなく、人間にしかできない仕事に注力する。コンビニ側の説明は一見理にかなっているようだが、異論もなくはない。「コンビニはレジなどで人手が必要無くなった分をサービスに振り分けるというが、そこで何をすれば顧客にとって付加価値が生み出せるか考える必要がある」と指摘するのは、流通業界やマーケティングに詳しい学習院大学・経済経営研究所の客員所員、中見真也さんだ。
中見さんはコンビニとスーパーを比較した上で、レジ以外の業務が大量で複雑なスーパーであれば、減らした分の人手をそういった仕事に回せるため省人化が有効になる、とみる。コンビニにおいても客の待ち時間の解消といった効果が見込めるが、「コンビニはスーパーより業務のフォーマットが画一的で、経営的にも高度なシステムができている。そこまでメリットはあるのか」(中見さん)。
一方で中見さんの着目するのが、省人化の要であるセルフレジの影響だ。「レジは、実は単に決済する場所ではない。客が『エンゲージメントする』(つながり愛着を持つ)ポイントだ」(中見さん)。会話などのサービスが客の満足度向上につながる。さらには、商品の不備への指摘といったような、POS(販売時点情報管理)データでも集めきれない客側の生の声が集まる場としての重要性も指摘する。
客側の負担が増す可能性も無視しきれないという。「レジという物流の“ラストワンマイル”がセルフになれば、客は買い物に時間がかかるようになる。必ずしもレジに人が並んでいるわけではないからだ。レジをセルフにした分、店が消費者に(業務を)負担させていることになる」(中見さん)。「省人化は企業の事情で進めている面もある。それを消費者に押し付けていいのか。省人化や無人化が利益になるか顧客の視点からも考える必要がある」と説く。
試行段階にある省人化のレベルでも意見が分かれる「無人コンビニ」の行く末。ただ、中見さんは「ある限られた条件で無人化するのはありだと思う」と指摘する。例えば、地域のコミュニティーを支えるインフラとして機能している郊外の店舗では難しいが、今回のセブンのように企業ビルに入っているような都市型の店舗では比較的向いているとみる。
ローソンの秦野さんも「どんな商環境に対応してどのように商品を売るかは、あくまで人間の手になる」としつつも、「20年後、コンビニが無人化するかはまだよく分からず、将来の可能性は否定しない」と話す。
IT技術の進歩という側面が強調されてきたコンビニの無人化。ただ、SFのような世界が日本の流通業界で登場するかどうかは、テクノロジーや小売り側の人手不足解消の思惑だけでなく、顧客側のニーズが本当にあるかどうかの見極めも重要になってきそうだ。
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