テレビの「CMまたぎ」がなくなる日 “減らして効果を上げる”奇策とは:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
広告収入減少に危機感を抱くテレビ業界。米NBCがCMの全体量を減らす“奇策”を打ち出した。より効果的なCMの流し方を模索する動きが活発になっており、日本のテレビCMの形式も変わるかもしれない。
プライム・ポッドで「CMまたぎ」による混乱はなくなる?
日本でも、ゴールデンタイムの1時間番組でプライム・ポッドを導入してみるのも面白いかもしれない。ドラマなら途中で中断しないため、高齢化が進む日本の視聴者も、冒頭の「いだてん」のコメントで出てきたような「混乱」を引き起こす可能性は減るはずだ。バラエティ番組でも、やれ「CMまたぎだ」「CMでひっぱりすぎだ」と、ネットなどでやじを飛ばしている人が少なくないが、そうした苦情もなくなるかもしれない。そうなれば、番組の作り方、見せ方も、変わってくるだろう。つまりコンテンツだけでなく、もっと言えばテレビそのものが変わってくることを意味する。
プライム・ポッドの行く先には、そうした変化もあり得るのである。
そもそも、最近では、ドラマなどを録画して、視聴の際にCMを早送りしてしまう視聴者も少なくない。おそらく、そのうちに録画でCMを飛ばせないようにする機能がつくことも考えられる。いずれにしても、NBCの現在までの実験が明らかにしている通り、効果的に視聴者にメッセージを届けることがCMの目的であるため、プライム・ポッドは期待の持てる一案だろう。さらにNBCでは、画面内に広告を入れ込む案など、他にも現在とは違う形でのCMの導入を模索しているらしい。
こうしたNBCの試みを推し進めているのは、11年にテレビ広告部門トップになったリンダ・ユッカリーノ氏だ。ユッカリーノ氏は、デジタル広告部門の責任者を務めていただけあって、幅広い見識がある人物と評価されている。
18年末にユッカリーノ氏が社内に向けて送ったメールがメディアで報じられている。彼女は、こう書いている。
「われわれは視聴者がよりよい視聴体験を求めていることや、マーケティング部門がさらなる成長を目指しているのを知っている。その両方の実現はわれわれの手にかかっている。これまでのレガシープロセスから離れ、消費者動向やクライアントが求めるニーズに正確に応えるシステムに向かう必要があるのです」
そんなユッカリーノ氏によってプライム・ポッドが初めて正式に動き始めた18年9月24日は、もしかしたら後々、テレビ広告が変わった記念すべき日と業界で記憶されるかもしれない。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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