「しつけで体罰」禁止? 褒める子育て? “美徳”に潜む現実:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/5 ページ)
東京都が「しつけでの体罰」を禁止する条例案を提出した。さまざまな反応があるが、法制化しただけでは「体罰を容認する空気」はなくならない。啓発活動とともに、子育てをする親が追い詰められない社会にすることが必要だ。
スウェーデンで“体罰容認”が減った理由
私たちが子どもの頃は、親に殴られたり、ベランダに立たされたり、お尻をぺんぺんされたりすることは珍しくありませんでした。女の子だったので、手を上げられたことも、暴言を吐かれた記憶もないのですが、兄は悪いことをすると、父にお尻をたたかれたり、「校庭を10周してこい!」と近くの小学校で走らされたり。まぁ、兄は1周走ったら、なぜかくっついていった私と鉄棒で遊んだりして時間をつぶしていましたけど(苦笑)、あれも今振り返れば、立派な体罰です。というか、それ以前に、お尻ペンペンや校庭のランニングがしつけになったか甚だ疑問です。
ですから、法制化されることで「親の怒りを暴露するためのしつけ」を容認する空気が薄まることを期待しているのです。
実際、世界に先駆けて今から40年前の1979年に「しつけでの体罰禁止」を法制化したスウェーデンでは、子どもをたたいたり、暴言を吐いたりする親はほとんどいないようです。70年代は子どもの約半数が日常的にたたかれていましたが、80年代には約3分の1に減少。2000年の調査では、体罰を行うことを支持する親は、1965年の53%から99年には10%になり、顕著に減少していることが分かっているのです。
ただし、スウェーデンでは「法制化」だけに頼るのではなく、政府が大規模な啓発キャンペーンを実施しました。
「Can You Bring Up Children Successfully without Smacking and Spanking?(あなたは子どもをたたかずに育てられますか?)」というタイトルの子育て支援冊子を、子どもがいる全ての家庭に配り、牛乳パックにもメッセージを印刷するなど、徹底的な人権教育を行ったのです。
関連記事
- 「産まない女が問題」麻生発言の陰で、増え続ける“未婚シングルマザー”
結婚せずに母親になった「選択的シングルマザー」が増えている。フランスでは婚外子の権利を保障する取り組みが進んでいるが、日本では未婚というだけで「会社を辞めなければならない」現実にぶち当たる人がいる。“世間のまなざし”は変わるのか。 - なぜLGBT後進国ではダメなのか 「国つぶれる」発言を覆す“伝説のスピーチ”
「同性婚が認められないのは違憲」として、10組の同性カップルが集団訴訟を起こす。先日、平沢勝栄議員が「国がつぶれる」と発言したことからも分かるように、日本は「LGBT後進国」。“自分と違う人”を尊重できる社会になるのか。そのヒントとなる「伝説のスピーチ」とは…… - “やりがい搾取”に疲弊 保育士を追い詰める「幼保無償化」の不幸
消費増税まであと1年。同時に「幼児教育・保育無償化」も始まる。しかし「保育士の7割が反対」という調査結果が示され、受け皿の不足と負担増加が懸念されている。このまま無償化するのは「保育士は灰になるまで働け!」と言っているのと同じなのではないか。 - 子どもを持つのは国のため? 「3人以上産んで」発言に潜む“幻想”
加藤寛治衆議院議員の「3人以上子どもを産んで」発言。「何が問題なのか」という声も聞こえますが、こうした発言が繰り返される理由を理解しておく必要があります。そこには、戦時中から変わらない「価値観」がはびこっていて……。 - 「1カ月の夏休み」は夢? 日本人の“有給の取り方”がズレている、歴史的背景
月曜を午前半休にする「シャイニングマンデー」。経産省内で検討していると報じられたが、そんな取り組みは「無駄」。日本人は、世界では当たり前の「有給休暇をまとめて取る」こともできていないからだ。なぜできないのか。歴史をさかのぼると……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.