あなたは「上司の命令なし、社員が何でも決める」職場で働きたいか:天国? それとも地獄?(4/4 ページ)
企業で上司が一方的に命令しない「自律的」な職場が広がっている。給料や事業方針も社員が話し合ったり自己決定。苦労して例のない取り組みに挑戦する理由とは?
「ヒエラルキー型企業が淘汰される可能性」
同社でかつて2回にわたり起きたのは「給与額のバブル」。武井さんによると、給与を社員間で決めた場合、どうしても相手の「たった今の価値より、未来にどれだけ活躍するかという期待値」に基づいて決定しがちになるという。「まさに株式市場のようなもの。期待に対して給与を決めるとどんどん金額が膨れあがり、現実と乖離し過ぎてバブルになっていった」(武井さん)。
しかも、武井さんによると給与が上がる喜びより、下がったときの心理的な痛みの方をずっと強く人は感じる傾向にあるという。今は会社の予算とのバランスで決めるようにしている。「(自律的な組織とは)機械でなく生き物。一般的な経営理論に載っていないことばかり起きる。だから痛みの中で僕らは学んでいく」(武井さん)。
経営者にも社員にも少なくない苦労や工夫を強いているようにも見える、こうした自律的経営。それでも取り組む理由について、武井さんは「下手したら長い目で見て100年先かもしれないが、こうした組織は良い結果を生み出す」と断言する。
武井さんは、例えば、社内で上司だけが社員全員の給与額を知っているといった情報格差が職場にあったのは「インターネットが無く、紙で情報を伝達していた時代だったから」と考える。「今はLineのグループ機能を使えば一発で伝達できる。ネットによって組織が変わらなくてはいけない外的要因ができた。何よりヒエラルキーを使って情報を隠している会社は社員にとって良い環境なわけがなく、採用で人気が無くなる。すべての情報を上からおろすやり方ではマーケットの変化にも耐えられない」(武井さん)。抵抗する企業の経営層が今後出る一方で、自然淘汰も進むとみる。
「奴隷のままがいい」サラリーマンも?
「こうした経営は長期的に見たら経済合理性が高いと思っている。外科的な西洋医学というより、いわば漢方で組織の体質を改善するようなもの。(日本の企業組織は)今後、すったもんだしながら変わっていくのだろう」と説明する武井さん。ただ、権限を委譲される側である一般社員の意識も問われる、とみる。
「米国で奴隷解放令が出た時、『自分は奴隷のままがいい』と反対した人たちもたくさんいた、と聞いたことがある。サラリーマンであるということはある種、『責任が無くてもいい』状態と言えなくもない。僕らの職場での『キャリア』とは社会の中で価値を持つ人になるということだが、(世間一般には)所属組織に適応し過ぎている人もいる」(武井さん)。裁量が広がり上司のくびきから逃れられそうにも見える自律的な職場は、私たち雇われる側にも、働く上での「自由であるための責任」を突きつける物だとも言えそうだ。
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