新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。
新しいシステムほど退化する「JRの壁」
もう一つ、JRの指定券で不便がある。インターネットで予約した場合、JRの境界を越えるとチケットを受け取れない。これは私の周囲の人々から不満を聞く。例えば、JR東日本の「えきねっと」でチケットを予約したとする。インターネットでは予約と決済しかできなくて、切符は駅で受け取る必要がある。しかし、新大阪から東京へ戻る東海道新幹線の切符をえきねっとで予約しても、新大阪駅で受け取れない。なぜなら、新大阪駅はJR西日本、またはJR東海の駅だからだ。あらかじめJR東日本の駅で受け取る必要がある。
えきねっとは「全国の新幹線やJR特急列車の指定席券」を予約できる。しかし、発券は全国ではない。JR東日本エリア、えきねっとを共通化したJR北海道エリア、北陸新幹線の縁があるJR西日本の北陸エリアだけだ。JR九州やJR四国の特急列車や観光列車の指定席も予約できるが、現地では切符を受け取れない。往復に航空機を利用する場合は、出発する前にJR東日本エリア内で発券しておかなくてはならない。北海道に住む人がえきねっとで予約して、JR九州やJR四国の列車を予約したら、飛行機で移動する場合も道内で受け取るか、JR東日本の駅に立ち寄れというのか。あきれるばかりだ。
JR西日本のインターネット予約は範囲が広く、JR西日本、JR四国、JR九州の駅と、JR東日本の東京都区内と北陸新幹線の駅で受け取れる。4月1日からJR東海エリアも対応する。ただし、JR東海エリアの場合は、JR東海エリアを含む切符だけ。JR東日本でも、JR東海の東海道新幹線を含む切符は受け取れないなど、制約がややこしい。
国鉄という、全国で一つの組織だった時代に作られたオンライン予約システム「マルス」によって、全国どこからでも指定席の予約と発券ができるようになった。今は廃止されたけれど、プッシュホンで予約して、予約番号を受け取れば、全国のみどりの窓口で切符を買えた。それがインターネット予約システムになったとたん、「JRの壁」ができた。
便利になったけれど、新たな不便ができた。オンラインシステムになって退化した部分である。ただし、この改善策は「全国どこでも発券できるように」ではない。一部の列車で対応しているように、一気にチケットレス化へコマを進めてほしい。予約したけれど、列車に乗る前に駅に行ったら、窓口や券売機の行列が長くて待たされて乗り遅れる。これは避けたい。
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