三陸鉄道リアス線 JR山田線移管を“予言”できた理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
3月23日、三陸鉄道リアス線が全線開通。東日本大震災で不通となっていたJR山田線沿岸区間を復旧し、三陸鉄道に移管した。この枠組みを7年前の2012年に予想していた。「どうしても鉄道で」を実現する解決方法が他に見つからなかったからだ。
三陸鉄道が引き継ぐ「責任」と「まちづくり」
三陸鉄道は山田線を引き受け、南リアス線、北リアス線に分かれていた路線を結び「リアス線」へ統合した。JR東日本から引き受けたものは路線だけではない。地域交通を担う責任とプライドだ。それは経済的にはとても重い負担になる。
河北新報電子版3月22日付「<三陸鉄道>あす開業 維持費、10年で79億円 沿線自治体 重い負担」によると、今後10年間で線路やトンネルの更新費は約29.5億円。修繕・維持管理費は約37.2億円。釜石〜宮古間の費用はJR東日本から提供された30億円を使うけれども、リアス線全体では赤字のままだ。
朝日新聞デジタル3月29日付「利用倍増でも赤字に 三陸鉄道」によると、三陸鉄道の18年度の経常赤字は約3.67億円。19年度はリアス線開業で利用者倍増と目論んでいるけれども、約2.95億円の赤字になる見通しだ。もっとも、倍増した利用者がもたらす経済効果を考えたら、約3億円の赤字は許容範囲だろう。
移動手段、交通手段が必要であればバスで良かった。それでも鉄道にこだわった。今後、三陸鉄道とその沿線の自治体は、なぜ鉄道が必要か、という問いに対して、答えを出し続けなくてはいけない。鉄道は、本来は大量輸送手段である。大量輸送を必要とし、維持できるまちづくりが求められる。
鉄道開通はゴールではない。始まりだ。復興を超えた発展を遂げられるか。三陸鉄道と沿線自治体の取り組みに注目したい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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