三陸鉄道リアス線 JR山田線移管を“予言”できた理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
3月23日、三陸鉄道リアス線が全線開通。東日本大震災で不通となっていたJR山田線沿岸区間を復旧し、三陸鉄道に移管した。この枠組みを7年前の2012年に予想していた。「どうしても鉄道で」を実現する解決方法が他に見つからなかったからだ。
しかし、その枠組みは私の予想外の展開となった。JR東日本が復旧費用約210億円のうち、鉄道施設に関する全額の約140億円を拠出した。残りの約70億円は駅周辺のまちづくりなどに関する費用として、自治体が国に復興交付金を申請し配分を受けた。鉄道軌道整備法によらない枠組みの元で復旧費問題が解決した。さらにJR東日本は一時金として30億円を提供し、赤字補填や将来の設備改修などの費用の原資とする。
JR東日本がプライドを捨てて路線を無料で手放す。それだけで充分だと思うけれども、追い金として合計170億円を負担するという。赤字路線を手放し、将来の赤字増大からも逃れさせられるとすれば、この費用は有用という判断だろう。
18年10月、鉄道軌道整備法の一部が改正され、黒字鉄道事業者の赤字路線も政府の助成が受けられるようになった。しかし、17年の豪雨で被災し、改正法が適用されると思われたJR九州の日田彦山線はいまだ復旧できていない。復旧後の赤字に対する補填(ほてん)について、JR九州と自治体の合意ができていないからだ。これが被災鉄道復旧の難しいところで、法律ができたからと言って合意形成が進むとは限らない。
法整備の裏付けがなかった当時、JR東日本は170億円と路線を提供し、矜持(きょうじ)を保ったともいえる。170億円はプライドを維持する費用だ。見事な撤退戦だった。
JR東日本は山田線の呪縛から逃れ、東北全体の復興に注力することになる。「SL銀河」「ポケモンウィズユートレイン」「TOHOKU EMOTION」などの観光列車を次々に投入。10年12月に五能線「リゾートしらかみ」で実用化した「ハイブリッド動力式観光車両」を、11年以降も青森、長野、新潟に導入した。11年から「行くぜ、東北。」キャンペーン、12年には事業エリアの特選品を販売する「のもの」を展開。東北を周遊する豪華クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」は17年に運行を開始した。
「TRAIN SUITE 四季島」は登場時期の差でJR九州の「ななつ星in九州」をまねたと思われているけれども、プロジェクト開始は11年で、東日本大震災がきっかけだった。「ななつ星in九州」開発発表の前だ(関連記事)。
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