三陸鉄道リアス線 JR山田線移管を“予言”できた理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
3月23日、三陸鉄道リアス線が全線開通。東日本大震災で不通となっていたJR山田線沿岸区間を復旧し、三陸鉄道に移管した。この枠組みを7年前の2012年に予想していた。「どうしても鉄道で」を実現する解決方法が他に見つからなかったからだ。
沿線自治体にとっては、JR東日本の「バスやBRTで責任を果たしたい」で妥協せず、自分たちでやるしかない。鉄道路線にこだわり続ける限り、JR東日本には頼れない。
沿線自治体が鉄道にこだわった理由は、すでに不通区間を結ぶバスがあったからだ。ただし、釜石〜宮古間の直通便はなく、北側が岩手県北バス、南側が岩手県交通で、結節点の「道の駅やまだ」で乗り換えが必要だ。ちょっと不便だけど、バスはある。ここにJR東日本の直通BRT路線ができた場合、既存のバスと競合する。バス路線2つより、バスと鉄道がほしい。
JR東日本の撤退戦が見事
JR東日本が三陸から撤退すべきと考えた理由にはほかに「JR東日本は東北全体の復興を担うべき」「国の支援制度で復旧するため」があった。東日本大震災は、局地的には岩手県、宮城県の三陸地域、福島県沿岸で大きな被害があった。しかし経済的影響は東北全体に及んだ。いや、風評被害も含めると日本全体に影響があった。ひとまずJR東日本にとっては首都圏と東北全体の事業エリアを考える必要がある。
被災鉄道路線の復旧に国の補助が得られる。これは鉄道軌道整備法に定められている。しかし、当時は赤字会社の路線に限定されていた。だから赤字の三陸鉄道は国の支援もあって早期復旧し、黒字のJR東日本の路線は国の支援が受けられない。被災したJR東日本の路線の復旧に国の支援を受けるなら、「JR東日本の路線ではない」ことにしてしまえばいい。都合が良すぎる、ちょっとズルいワザのように見えるけれども、法律にのっとった枠組みを作れる。
JR東日本は地域輸送の社会的責任というプライドを捨てる。地域は鉄道輸送の実利をとり、赤字でも維持していく。両者にそれなりの覚悟が必要だ。鉄道を復活させるために、両者はあえて、起こり得るリスクを飲み込んだ。JR東日本は山田線沿岸区間を三陸鉄道に譲渡した。
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