日本郵便の“戦う専務”が指摘――IT業界の「KPI至上主義」「多重下請け構造」が日本を勝てなくしている:CIOへの道(3/3 ページ)
先進国の中でもIT活用が遅れている日本。その原因はどこにあるのか――。日本郵便の“戦う専務”鈴木義伯氏とクックパッドの“武闘派情シス部長”中野仁氏が対談で明らかにする。
「CIOの不在」「経営とITの分断」が事態を深刻にしている
中野: 成功が保証されていることしかやらないのであれば、どうしても過去の実績を踏襲するしかありません。でも、クックパッドに導入したシステム構成は、北米では多くの成功実績があったもの、日本ではほとんど実績がない製品を入れるということでしたから、失敗する可能性も大いにありました。そのリスクを承知の上で前に踏み出すには、やはり「経営層の決断」が不可欠です。
今回のクックパッドにおけるシステム投資も、企画段階では本当にうまくいくかどうか分からなかったんです。北米では実績があるけれど、日本でそれが機能するかどうかは、やってみないと分からない。日本で導入実績がないシステムを入れようと思うと大きなリスクがある。マニュアルにないシステム導入の難所を最初に発見し、解決するという意味では、まさに“人柱”というやつです。
大規模なシステム刷新プロジェクトは、下手すると失敗して、想定したコストの2〜3倍くらいかかってしまう可能性もあるわけですが、「それでもやりますか?」という話です。このレベルのリスクを持つ案件は、経営が判断すべき話ですから。特に、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング:既存の業務フローやプロセスを根本から見直し、再設計すること)も含んだインパクトの大きな話とか、組織構造自体を変えたり、仕事を変えたりするようなレベルの決定というのは、企画段階では最終的にうまくいくか分からないものです。結果の分からないインパクトの大きい案件をどう実行するかは経営の仕事なのだと思います。
北米の勝ち組企業のシステム投資を研究して思うのは、海外ではCIOが当たり前のように存在していて、経営レベルでシステム投資の決定が行われている一方で、ほとんどの日本企業にはCIOはおらず、いたとしても情報システム部門や総務部門の部長が兼務していて決定権を持っていない“名ばかりCIO”だったりする。
本来CIOが扱うような、「部署横断で、投資額も業務プロセスに対するインパクトも大きい案件」を失敗せずに進めるには、世の情シスマネジャーやシステム部門が持つ力は、あまりにも心もとない。予算も権限も限定的過ぎて、インパクトのある決定に切り込んでいけないわけですよ。
このような「決められない、変えられない人」が前面に立ったら、相対するベンダーやSIerとしては失敗できないから、やむを得ずこれまでの実績を踏襲した提案しかしないですよね。後は失敗した時のために、予算にバッファーを積んで見積もりを立てる。この「CIOの不在」や、経営とITが結び付いてないという問題もまた、日本におけるIT産業の深刻な構造問題の1つだと思います。
【後編に続く】
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