懐かしい音と匂いを楽しむ「SL」ハシゴ旅 「もおか号」「SL大樹」を巡る1日:杉山淳一の「週刊鉄道経済」GW特別編(6/6 ページ)
真岡鐵道が機関車1台を売却し、東武鉄道が落札したと報じられた。2社は現在、それぞれSLを運行している。真岡鐵道は「もおか号」、東武鉄道鬼怒川線は「SL大樹」だ。2つのSL列車を1日で乗り比べてみよう。
SL大樹「ドリームカー」は閑散期限定に
「SL大樹」の座席指定券はネットで買える。しかも座席指定はシートマップ方式だ。私が7日前に購入したとき、窓側席がほぼ埋まっていた。販売開始は1カ月前だから、さすがに希望の席は取りにくい。ちなみにオススメは鬼怒川温泉方面に向かって左側。鬼怒川を渡る景色が良い。進行方向右側には国道121号線の橋があって、少し残念な感じだ。
シートマップで空いている日を探していたら、4月20日の2号車だけ座席数が少なかった。もしやと思って公式サイトを調べたら、2号車がドリームカーになっていた。ドリームカーは、かつてJR北海道が運行していた夜行急行「はまなす」に連結されていた指定席車両だ。普段のSL大樹で使われている14系客車と同じ形式だけど、ドリームカーの座席は豪華版。特急列車のグリーン車で使われた座席を搭載したため、背もたれが大きく倒れる。夜行列車のため、談話室としてラウンジスペースが設けられた。
14系の通常座席は簡易リクライニングシートといって、背もたれを倒すと体重で角度を維持する仕組み。身体を起こすと「バタン」と音がして、背もたれが元の位置に戻る。これがなかなかうるさいし、体が軽い人は、身体を起こさなくても気を抜くと座席が戻ってしまう。不自由だけど、この仕組みも懐かしいと、往年の鉄道ファンには喜ばれている。しかし、やっぱりドリームカーの座席は快適だ。SL大樹は通常座席もドリームカーも同じ料金だから、事情を知る鉄道ファンはドリームカーを選ぶ。
東武鉄道によると、ドリームカーの初運行は4月13日の「DL大樹」だった。そして私が乗った4月20日は「SL大樹」のドリームカー運行初日だった。初物好きの鉄道ファンが集まって混んでいるわけだ。前述の通り、ドリームカーは座席数が少ないため、多客期は連結されない。ドリームカーの連結は年間40日程度の予定。19年はすでに4カ月が経過しているため、残り8カ月間のうち、24日間で運行する。4月21日の運行の後は6月の土日に運行。7月と8月は連結されず、9月7日から連結を再開する。
今日は幸運。「SL大樹5号」で、残りわずかなドリームカーの座席を取れた。しかし進行方向右側の通路側だったから、いまひとつ居心地がよろしくない。そこでラウンジスペースに行ってみたところ、誰も使っていなかった。これ幸いと左側の窓際に座り、鬼怒川鉄橋の通過を眺めた。誰か来たら交代しようと思ったけれど、結局、右側に親子が来ただけ。最後までラウンジスペースにいられた。走行時間の短さが幸いしたようだ。
鬼怒川温泉駅到着は午後4時42分。日帰りのつもりだったから、すぐ引き返したい。しかし、ドリームカーがあるなら、折り返し「SL大樹6号」で帰ろう。幸いにもドリームカーの窓際席があった。帰りは深いリクライニングシートを楽しみたい。
真岡鐵道が手元に残す蒸気機関車「C12形 66号機」昭和8年製。この機関車を残す理由は、C12形のうち営業運転できる唯一の車両だから。C11形は動態保存機が多く、真岡鐵道の独自性が損なわれる。東武鉄道にとっても、C11形を運行し保守経験を蓄積しているため、同型のC11形のほうが都合がよかったと思われる
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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