なぜ宿題は「無駄」なのか?――“当たり前”を見直した公立中学校長の挑戦:麹町中学・工藤勇一校長の提言【前編】(4/4 ページ)
宿題もなく、クラス担任もなく、中間・期末試験もない――。学校の「当たり前」を見直し、メディアや教育関係者、保護者などから注目されている公立中学校が東京都にある。
自分の時間を、自分の考えで使えることの大切さ
学校で宿題を出されて子どもが勉強机に向かっていれば、勉強の習慣が付くと、保護者は安心するに違いありません。その思いは分かります。しかし、本当に大切なのは、勉強時間よりも勉強の中身です。自律的に学ぶ経験を積まないと、決して工夫して仕事ができる人にはなりません。
もっと言えば、私は、学校でしっかりと勉強をして、家では、好きな音楽を聴いたり、本を読んだり、スポーツをしたり、あるいは、ぼんやりと思索する時間の方がよほど有意義だと思っています。そうした時間の中で、自分自身の内面や思考が整理され、大切なことに気付いたり、思い付いたりすることは、たくさんあるに違いありません。
宿題を全廃したことで、最も喜んだのは、受験を控えた3年生の生徒たちでした。それは「負担が減って楽になったから」ではありません。自分にとって重要ではない非効率な作業から解放されたからです。自分の時間を、自分の考えで使えることの大切さについて、生徒たちは、敏感に感じ取っていたのだと思います。
もし、それでも宿題を出したい先生がいるのなら、生徒たちに「すでに十分にできる問題は、やっちゃダメだよ。よく分からない問題に頑張ってトライしてくるんだよ」と伝えるべきだと思います。繰り返しになりますが、学習は「できない」問題を「できる」ようにするプロセスでないと、意味がないからです。
何より重要なのは、学校の中で学習すべき内容を理解できるようにすることです。そして、「やらされる学習」ではなく、生徒たちが主体的に学ぼうとする仕組みを整えることです。宿題が子どもから自律的に学ぶ姿勢を奪わないようにしなければなりません。
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