ディズニー、Hulu…… 動画配信の覇権争いは日本アニメをどう変えるか:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(5/7 ページ)
覇権争いを激化させる映像配信プラットフォームの巨人たち。日本アニメにどんな影響を与えるか。アニメ・映像ビジネス報道の第一人者が斬る。
ディズニー系でジブリ作品配信も!? 日本版Huluの課題と可能性
Huluはすでに配信ライセンスを購入した非独占のかたちで、日本アニメを配信している。多くは米国現地の日本アニメ配給会社であるファニメーションやビズメディア、センタイ・フィルムワークスを通じたものだ。しかしHuluが今後、自社オリジナルの日本アニメに乗り出ことは十分ありえる。むしろ焦点はHuluがどんなタイプの日本アニメを求めるかである。
本国米国で注目されるDisney+だが、日本で今後どのように展開するかは実は見えていない。さらにHuluについては、日本独自の問題が立ちはだかる。日本にはすでにHuluブランドの映像配信プラットフォームがあるからだ。
HuluはNetflixとは違い、米国以外の地域で事業展開をしていない。唯一海外展開したのが11年に上陸した日本だった。しかしビジネスは初期段階で挫折して、早々に事業を日本テレビに売却した。現在の日本のHuluは、日本テレビが大株主のHJホールディングスが運営する国内資本である。
今後Huluの世界進出が予想される中、日本市場をどう扱うのかが定まらなければ日本アニメの戦略はおぼつかない。グローバルになったとはいえ、アニメで最も稼げるのはやはり日本である。
ディズニーは日本のHuluを買い戻したいかもしれない。しかし日本テレビは手放したくないだろう。そもそも早い段階で日本市場に見切りをつけたHuluを、有力プラットフォームに育て上げた自負が日本テレビにあるはずだ。
しかし、もし日本のHuluとディズニーが連携すれば、大きなインパクトはあるはずだ。例えばHJホールディングスが増資して、ディズニーがそれを引き受けて共同経営とする。番組ラインアップは相当強力になるはずだ。
さらに夢物語をするならば、両社と縁が深いスタジオジブリ作品の独占配信といったサプライズがあればインパクトは大きい。国内で急成長するAmazonプライム・ビデオやNetflixにも対抗できる。
さらにまた分かりづらいのが、日本での独自の動きだ。その1つがこの4月にスタートしたDisney DELUXE(ディズニーデラックス)である。ディズニー、ピクサー、ルーカスフィルム、マーベルの4つのブランドを束ねた配信サービスで、月額700円(税別)で人気作品が見放題となる。
Disney+とよく似た日本版Disney+にもみえるが、今秋からの米国でのDisney+に先行してサービスを開始している。Disney+との違いはNTTドコモとチームを組んでいることだ。スマートフォン向けを中心に日本で影響力を持つキャリアの協力を得る。
この後Disney+があらためて上陸するのか、あるいはDVD/Blu-ray販売と組み合わせた日本独自の配信サービスMovieNEXの行方は? Huluの次の展開は? 日本でのディズニーの配信ビジネスは複雑に絡まっている。これが解きほぐされないと、日本アニメへの参入はなかなかうまく進まないか、参入してもその効果は相当削がれてしまうだろう。
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