完敗としか言いようがない日産の決算:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
ズタズタの決算内容だった日産。一つの要因は、北米で販売促進費用(インセンティブ)をつぎ込んで売り上げを伸ばそうとしたことにあるのではないか。対策として、22年にはモデルラインアップの半数を電動化車両にするというがバッテリー供給は大丈夫か。20車種の新型を出すというのも、短期間で作られる新車は大丈夫なのか?
正直なところ、ここまでの数字だと分析して何がしかの対策が見いだせるものでもない。多分あらゆる項目がダメだと考えられるのだが、それでは解説にならないので一応やってみる。まずは販売台数がどこで落ち込んだのかだ。
- 日本は58万4000台から59万6000台(プラス1万2000台 2.1%増)
- 北米は159万3000台から144万4000台(マイナス14万9000台 9.3%減)
- 中国は152万台から156万4000台(プラス4万4000台 2.9%増)
- 欧州は75万6000台から64万3000台(マイナス11万3000台 14.9%減)
明らかに北米と欧州の落ち込みがひどい。一見プラスに見える日本だが、日産はもう長らく国内向けに新車をほとんど出していない。かつて国内販売でトヨタと覇を競っていたところから、長い年数をかけて凋落(ちょうらく)して来た末にあるのが今の数字だ。59万6000台に増えたといっても、かつてのライバルトヨタは国内販売222万6000台。しかもその虎の子の59万6000台に占める軽自動車の比率が高いので、一台当たり利益も小さいというていたらくだ。
次年度のリカバリープランはあるのか?
で、出てしまった結果は仕方がないとしても、この不振を今後どうするつもりなのかと次年度の販売台数見通しを見てみる。
日本でのプラス2.3%はグローバルへの影響としてはもう誤差でしかないし、おそらく日産自身もそれでグローバル販売台数をどうこうできるとは考えていないだろう。
今期決算に大きな痛手となった北米と欧州は、次年度も続落の見込み。唯一中国マーケットは次年度の成長が見込める見通しになっているが、中国の特殊ルールで縛られる中国法人は半分が現地資本であり、日産が持ち分比率で利益計上できるのは半分程度になってしまう。
ちなみに、中国での販売台数では、日産はトヨタに勝っている。トヨタの148万7000台に対して、156万4000台。ただこれも喜んでばかりはいられない。トヨタは技術流出を案じる日本政府から中国進出を自重するように呼びかけられた経緯があり、以来対中国マーケット用にいろいろな用心をして、準備を整えてから本格的に進出しているからだ。本腰を入れてからは2年くらいでしかない。先行する中国の覇者フォルクスワーゲンに至ってはすでに300万台。日産の中国での成績は、確かにほかの各地での厳しさに比べれば福音だが、さりとて利益面でも成長速度でも順風満帆とはいえない勝ちである。
という見通しに鑑みれば、北米と欧州での立て直しが長期化すれば、立て直し策が間に合っていないと見るしかないだろう。
関連記事
- 資本主義経済に対するテロ行為 ゴーン問題の補助線(1)
元日産自動車会長、カルロス・ゴーン氏の逮捕を受けて、世の中は大騒ぎである。日仏経済界や政治レベルでの懸案にまで発展しかねない様相を呈している。今回はこの事件について整理してみたい。 - 日産リバイバルプランがもたらしたもの ゴーン問題の補助線(2)
1990年代、業績不振に喘ぐ日産自動車にやって来たカルロス・ゴーン氏は、「日産リバイバルプラン(NRP)」を策定して大ナタを振るった。その結果、奇跡の回復を見せ、長年の赤字のトンネルを抜けた。しかし一方で、それがもたらした負の遺産も大きかったという。 - フランス政府の思惑 ゴーン問題の補助線(3)
多くのメディアではルノー日産アライアンスを成功例と位置付けているが、筆者はそれに同意しない。提携以来、ルノーの業績は右肩下がりを続け、日産自動車が新興国で汗水垂らして作った利益を吸い込み続けているからだ。 - ガバナンスの失敗 ゴーン問題の補助線(4)
シリーズでお伝えしてきた「ゴーン問題の補助線」。最終回は、日産リバイバルプラン前から現在の状況に至る企業ガバナンスのあり方について考えてみたいと思う。 - ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 後編
ゴーン氏逮捕については、センセーショナルな事件であったことや、私的流用や公私混同の話がゴシップネタとして面白おかしく報じられたことから、ゴーン氏一人が注目を集める格好となった。しかし企業としての責任にフォーカスすると、どう見えるだろうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.