中国が突き進む「一帯一路」と、ユーラシア鉄道網の思惑:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)
中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」。ユーラシア大陸全体に及ぶ構想において「鉄道」は重要なインフラだ。この鉄道網の整備の行方は、日本の政府や企業にとっても大きな影響を及ぼす。
海外の鉄道ニュース記事をチェックすると「一帯一路」というキーワードをよく見かける。これは中国が進める広域経済圏構想で、中国国内にとどまる話ではなく、ユーラシア大陸全体に及ぶ構想だ。そのなかで鉄道貨物輸送「中欧班列(チャイナ・レールウェイ・エクスプレス)」が交通インフラとして存在感を高めている。
数年前まで、中国の鉄道の話題といえば高速鉄道網の延伸だった。日本の新幹線技術も取り入れた中国版新幹線は、2008年に北京と天津を結ぶ京津城路として開業した。路線距離は約117キロ、最高速度は時速350キロだ。その後、既存路線の高速化や新路線の建設を着々と進めた。
中国高速鉄道といえば、11年に起きた温州市の脱線衝突事故の記憶が残る。しかし、その後大きな事故は報じられていない。安全対策と信頼の回復が適切に行われたようだ。結果、航空機より低価格で市民に支持された。中国高速鉄道は中国国土の東半分に網の目のような路線網を形成し、10年間で2万9000キロに達した。全てが同じ設計速度ではなく、時速200キロ、250キロ、300キロ、350キロの4区分となっている。
これとは別格の存在として上海リニアモーターカーがあり、最高速度は時速430キロだ。ただし、ドイツのトランスラピッド方式を採用したリニアモーターカー路線は、運行費用とドイツからの技術移転の交渉がまとまらず、中国大陸の高速鉄道の主流にはなれなかった。
19年は6800キロの高速鉄道路線を開業予定だ。これを含めて中国の西側未開発地域に約4万キロの新路線建設計画がある。03年の全国人民代表大会で決定した西部大開発を進めるためで、設計最高速度は時速200キロ以上だ。
一方、急速に拡大する高速鉄道の累積債務は85兆円を超えていると報じられた。北京〜上海間など主要都市間は利益率50%という好成績、一方で過剰投資による赤字路線も多いという。黒字の新幹線もあれば、赤字ローカル新幹線もある。日本の鉄道の赤字問題とはスケールが違う。それでも中国が新幹線建設を続ける理由は国内の景気対策といわれている。今後は米国との貿易摩擦による景気低迷を下支えする意味もありそうだ。
関連記事
- こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。 - 新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。 - 東急・相鉄「新横浜線」 新路線のネーミングが素晴らしい理由
東急電鉄と相模鉄道は、新路線の名称を「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」と発表した。JR山手線の新駅名「高輪ゲートウェイ」を巡って議論が白熱する中で、この名称は直球で分かりやすい。駅名や路線名は「便利に使ってもらう」ことが最も大切だ。 - 自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。 - 新型特急「Laview」が拓く、“いろいろあった”西武鉄道の新たな100年
西武鉄道は新型特急「Laview」を公開した。後藤高志会長は「乗ることを目的とする列車に」と強調。西武特急に対する危機感が表れている。この列車の成功こそ、“いろいろあった”西武鉄道を新たな100年へと導く鍵となりそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.