中国が突き進む「一帯一路」と、ユーラシア鉄道網の思惑:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」。ユーラシア大陸全体に及ぶ構想において「鉄道」は重要なインフラだ。この鉄道網の整備の行方は、日本の政府や企業にとっても大きな影響を及ぼす。
「大陸の船」として貢献するシベリア鉄道ルート
一帯一路構想以前から、ユーラシア大陸を横断する鉄道は重要な貨物輸送ルートだった。1960年に国連アジア極東経済委員会は、南アジア各国の鉄道を建設、接続する形で、イスタンブールとシンガポールを結ぶ1万4000キロの鉄道路線を構想する。これを発展させて欧州と東アジアを結ぶ4つのルートを検討し、国際コンテナ列車の試運転も実施。2006年に国際連合アジア太平洋経済社会委員会がアジア横断鉄道ネットワークに関する政府間協定を採択し、東南アジアの他、ロシア、中国、韓国、北朝鮮を含む24カ国が参加した。
アジア横断鉄道は北朝鮮と欧州を結ぶルートが実用化されている。中国と北朝鮮の線路はつながっているけれども、欧州と北朝鮮を結ぶ直通列車はない。北朝鮮と韓国の線路は分断されたままだ。アジア横断鉄道は本質的に中国と欧州間の輸送が主であり、韓国や日本は中国またはロシアと海路で結ばれている。北朝鮮の非核化や国交正常化、ロシアとサハリン、北海道を連絡する鉄道構想は、アジア横断鉄道構想として捉えるべき問題といえる。
アジア横断鉄道の4つのルートは、シベリア鉄道を経由する「北部回廊」、中国雲南省からタイ、ミャンマー、バングラデシュ、インド、パキスタン、イラン、トルコを経由して欧州に至る「南部回廊」、イランとフィンランドを結ぶ「南北回廊」、そして、中国と東南アジア各国を結ぶルートだ。ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、マレーシア、インドネシアを結ぶ計画となっている。それぞれのルートは1本道ではなく、途中の経由地や経由国が変わる。「北部回廊」「南部回廊」「南北回廊」は接続済みで、長い間をかけて路線が整備新設され、より荷主に有利なルートが選択されてきた。
北部回廊のうち、ロシア・ナホトカ〜シベリア鉄道〜ベラルーシ〜ポーランド〜ベルリンを結ぶルートは「シベリア・ランドブリッジ(SLB)」と呼ばれ、日本と欧州を陸路で結ぶルートとして1970年頃から利用されている。ソビエトにとってシベリア鉄道の運賃は重要な外貨獲得手段だった。しかし、列車強盗など治安リスクがあって敬遠する動きもあり、ついにソ連体制崩壊などによって中断されてしまう。
ロシア経済の成長によって、2000年代に鉄道網が整備され、安全なコンテナ輸送が始まると、日本の輸送業者にとって「シベリア・ランドブリッジ」は重要な存在となった。11年の年間輸送量は4万TEU(20フィートコンテナ4万個)だった。
18年に国土交通省とロシア鉄道は「H30年度シベリア鉄道による貨物輸送パイロット事業」を実施し、日本からモスクワまで最短で15日、最長で30日程度の輸送期間を確認。南回り航路の2分の1〜3分の1の期間で輸送可能だった。賞味期限のある食品を輸送した場合、輸送期間を短縮すれば、その期間だけ販売可能期間を増やせることになる。
北部回廊のうち、主に中国を通過するルートは「チャイナ・ランド・ブリッジ」と呼ばれている。中国江蘇省の連雲港〜ウィグル自治区〜カザフスタン〜エカテリンブルク〜ロシア〜ベルリンを結ぶ。一帯一路の基幹となる鉄道ルートは、これを改良したルートだ。
日本は小さな島国だから主要都市は海沿いにある。都市間の大量貨物輸送は船舶が主役だ。従って、鉄道貨物は主に速達性を重視している。しかし、ユーラシア大陸において、港を持たない都市は大型貨物船を使えない。だから、鉄道も大量輸送手段の主役である。大陸にとって、貨物列車は「陸を行く船」。中国やロシアが鉄道貨物輸送を重視する理由である。
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