中国が突き進む「一帯一路」と、ユーラシア鉄道網の思惑:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」。ユーラシア大陸全体に及ぶ構想において「鉄道」は重要なインフラだ。この鉄道網の整備の行方は、日本の政府や企業にとっても大きな影響を及ぼす。
「負の事実」をかわそうとする中国
AIIBは円借款より高利で、貸し付けた国が返済できない場合、建設した設備の運営権は中国企業のものになる。スリランカは港湾を整備したものの、借金を返せず、99年間の運営権を中国企業に譲渡した。中国海軍の拠点にもできる。これが中国による経済侵略、占領だという批判もある。特に米国は「債務のわな」と激しく批判している。
18年にマレーシアでマハディール政権が復活すると、シンガポールを結ぶ高速鉄道とマレーシア東海岸鉄道の計画を見直す意向が示された。どちらも「一帯」と「一路」を結ぶ重要な路線で、合計4兆5000億円の事業だ。費用のほとんどを中国輸出入銀行が融資し、建設は中国交通建設集団が請け負う。新政権は高速鉄道計画を20年5月まで延期することをシンガポールと合意した。マレーシア東海岸鉄道は中国側と再交渉し、事業規模を縮小した。白紙撤回すればマレーシアから中国へ違約金が発生するからだと報じられている。
習近平国家主席はこうした批判や「一帯一路の負の事実」をかわすため、17年と19年4月に開かれた「一帯一路」国際協力サミットフォーラムで「国際ルールにのっとる」「内政干渉はしない」「体制を押しつけない」などと発言し、参加国の不安を取り除こうとしている。参加国にとっては、大局的に見れば欧州経済と中国経済の好影響を受けられると考えて、有利に交渉したいだろう。
19年4月のフォーラムには、約150カ国の代表が出席した。そのうち政府首脳の参加は37カ国で、ロシアのプーチン大統領も参加している。日本からは自民党の二階俊博幹事長が出席した。米中対立の中で慎重なかじ取りが必要な場面で、まずは「参加」ではなく「協力」の姿勢を見せた。
「一帯一路」構想のルート概念図(出典:アジア経済研究所・上海社会科学院共編『「一帯一路」構想とその中国経済への影響評価』研究会報告書、アジア経済研究所、2017年。図版作成は報告書の著者大西康雄氏とアジア経済研究所企画課山口絵里氏)
関連記事
- こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。 - 新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。 - 東急・相鉄「新横浜線」 新路線のネーミングが素晴らしい理由
東急電鉄と相模鉄道は、新路線の名称を「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」と発表した。JR山手線の新駅名「高輪ゲートウェイ」を巡って議論が白熱する中で、この名称は直球で分かりやすい。駅名や路線名は「便利に使ってもらう」ことが最も大切だ。 - 自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。 - 新型特急「Laview」が拓く、“いろいろあった”西武鉄道の新たな100年
西武鉄道は新型特急「Laview」を公開した。後藤高志会長は「乗ることを目的とする列車に」と強調。西武特急に対する危機感が表れている。この列車の成功こそ、“いろいろあった”西武鉄道を新たな100年へと導く鍵となりそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.