テスラModel 3試乗 これはドライバーの理想ではなく、テスラの理想:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
日本に2台しかないModel 3を試乗。ガジェット的な数々の仕掛けはひとまずおいておき、500万円オーバーのクルマとして冷静にみた場合にどうなのかをまとめてみる。また、自動運転の味付けにはメーカーの考え方がよく現れる。テスラの場合、ドライバーの理想ではなく、テスラの理想がクルマを走らせるのだ。
ゲーム的に、切れば曲がる
最新トレンドからみると、ボディ剛性に関しては少しばかり遅れをとっている。悪くはないが第二グループというところだろう。
おそらく静的なねじり剛性はそこそこあるが、いかんせん床下に抱えたバッテリーが重すぎる。ちなみに車検証の車両重量は1770キロで前軸重が850キロ、後軸重が920キロとなっている。エンジンとバッテリーを両方積んで重いはずのプリウスPHVは1530キロ。Model 3より20センチ長いカムリ(全車ハイブリッド)で1600キロだ。
剛性感は、絶対的なねじり剛性値ではなく、おおむね「重量当たりのねじり剛性値」で決まる。しかも重いと各部をより補強しなければならなくなり、それが重量を呼んで加速度的に不利になる。
ステアリングコラム周りの剛性も少し前の水準。頼もしさは感じない。
足回りに関していえば、特筆するくらいバネが硬い。これは重量の都合上やむを得ないだろう。硬いばねでないと重さが支えられない。
それが独特なハンドリングフィールを生んでいる。普通のクルマは舵角(だかく)を入れると外側前輪が沈み込むアクションがあって、それから横力が上がっていくのだが、硬いばねはほとんどたわまないので、荷重が動かない。その分、ハンドルを切った直後にすぐ回頭が始まる。
俊敏と表現することもできるが、同時にゲームっぽい。動きに「タメ」がない。この舵角への追随の良さは、もう少し高負荷な領域までいっても変わらない。とにかく切れば曲がる。
ただし、スポーツ性の見地から見るとタメは重要だ。動きの遅れはタイヤのインフォメーションとして伝わるので、いまタイヤの能力の余裕がどの程度あるかを知らせる情報の1つになる。それほど飛ばしたわけではないが、そういう意味ではModel 3は限界に持っていかない方が良さそうな印象を受けた。
また加減速で前後への荷重の移動を試しても、ハンドリングは一定でほぼ変わらない。それを安心だと見るか、つまらないと見るかで評価が分かれるところだろう。おそらくハンドリングの味付けの意図としては、運転して楽しいことよりも、難しいことを考えずにハンドル操作だけで速く走れる手軽さを求めているのだと思う。ドライバーに技量を求めない姿勢はテスラらしい。
個人的には、あれだけの高精度なトルクデリバリーができるモーターがあるのだから、ワンペダルドライブを積極的に使って前後荷重移動で舵(かじ)の効きが変えられたら相当に楽しいものになると思うのだが、実際は山道を駆け回るより都市高速で車線変更のクイックな身ごなしを楽しむタイプである。
あれだけばねが硬いにも関わらず乗り心地は決して凶悪ではない。これに関しては車体の重さがいい意味で効いているからだ。
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