着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)
リニア中央新幹線の2027年開業を目指し、JR東海は建設工事を進めている。しかし、静岡県が「待った」をかけた形になっている。これまでの経緯や静岡県の意見書を見ると、リニアに反対しているわけではない。経済問題ではなく「環境問題」だ。
大井川水系の河川流量維持を求める
リニア中央新幹線は静岡県も通る。全て南アルプスを貫くトンネルで、距離は約11キロ。品川〜名古屋間285.6キロのうち、わずか3.8%にすぎない。しかし、この部分が大井川水系の水源地帯だ。11年にJR東海が「中央新幹線(東京都・名古屋市間)計画段階環境配慮書」を公開し意見を募集した。12年2月、静岡県知事は「河川流量のそのものの維持を図ること、トンネルの工事及び存在が水資源の減少につながらないよう路線維持を選定すること」と意見している。
13年9月に公開された「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価準備書」によると、大井川の河川流量は工事完成後に毎秒2トンの減少と記された。これを受けて静岡県知事は14年3月に意見を提出。「毎秒2トンの減少は住民生活、産業活動にとって将来にわたり深刻な影響がある」とし、「技術的に可能な最大限の漏水防止対策と湧水を大井川に戻す対策」を求めた。
14年4月22日、静岡県は「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」を設置した。リニア中央新幹線事業が環境に与える影響を継続的に確認するとともに、環境保全措置について助言し、環境影響の低減を図るためだ。
JR東海は14年4月の「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書」において、「工事中からトンネル内の湧水を汲み上げて大井川に戻す」「工事完了後も流量の観測を行い、利水関係者の話を聞いて恒久対策を実施」「例えばトンネル湧水をポンプアップして河川に戻す方法を検討する」と回答した。しかし、静岡県はこの回答だけでは納得しなかった。
17年10月、JR東海は工事中の湧き水を大井川に流すための導水路トンネル工事に着手した。導水路トンネルで毎秒1.33トンの水を戻す。残り0.7トンも湧き水をポンプアップで戻す計算だ。これに対して静岡県知事は「合意なき建設着手」と反発。静岡県は湧き水の全量を無条件に大井川に戻すよう求めており、JR東海の計算通りでは毎秒2トンが上限値となってしまう。報道によれば「JR東海から具体的な回答がない」「傲慢な態度を取り続けている」「堪忍袋の緒が切れた」などと強い口調だったという。JR東海としては大井川水域の利水団体とは県の仲介で基本協定の内容がまとまりかけていたところで、困惑するほかなかったようだ。
結局、18年10月にJR東海は「全量を戻す」と約束。ただし、その方法については明示しなかった。静岡県は具体的な方法について回答を待った。
18年12月28日、静岡県中央新幹線対策本部は、JR東海に対し、「水資源の確保及び自然環境の保全等に関する質問書」を提出。回答を得て対話を続けた。JR東海のリスク管理に関する基本姿勢が論点となっていた。
19年4月15日、静岡県中央新幹線対策本部の地質構造・水資源専門部会で、JR東海は、リスクへの対処方法、基本的な考え方・方針を示した。静岡県とJR東海はリスク管理の基本的考え方の共通認識を持ち、個別事項の対話を進めている。JR東海から湧水量の上限値を毎秒3トンとするという提案がされたようだ。
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