国鉄と共に消えた「チッキ便」 新たな枠組みで復活させたい:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
サザコーヒーと木内酒造が路線バスを使った商品輸送を始めた。その背景に貨客混載の規制緩和があり、全国的に貨客混載の事例が誕生している。地方鉄道にもチャンスがありそうだ。国鉄時代の「チッキ便」を、新たな枠組みで再出発させる契機になるかもしれない。
背景は「自動車の効率輸送のための規制緩和」
なぜ列車が選ばれなかったか。「特急電車は大きな台車を乗り入れるには扉が狭い」「普通列車では間仕切りが必要で乗客案内上ふさわしくない」「そもそも東京駅の停車時間が短く、荷役に適していない」などが考えられるけれども、最も大きな理由は「列車とバスでは、貨客混載の政策的扱いが異なる」からだ。おそらく今回の事例では「列車にするかバスにするか」という選択は行われなかっただろう。「バスのデッドスペースとなったトランクルームを活用できないか」が主眼だ。
きっかけは国交省が2017年8月7日に通達、9月1日に施行した「旅客自動車運送事業者」と「貨物自動車運送事業者」に対する規制緩和だ。路線バス、貸切バス、タクシーが貨物輸送を実施できるようになり、トラックが旅客輸送できるようになった。これは「貨客混載を通じた自動車運送業の生産性向上」を目指したプランだ。
ドライバーの人手不足、人口減少による輸送の落ち込みによって、物流事業の持続可能性が低下している。従来のように、旅客輸送事業者と貨物輸送事業者の許可を区別したままだと「定員に満たないバス」と「極端に荷物が少ないトラック」が増えて効率が良くない。CO2の削減にもならない。そこで「バスに貨物を乗せる重量の上限を上げる」「同じ事業者が旅客と貨物を手掛ける場合、運行管理者などが両方を兼務できる」という通達を出した。
実は路線バスについては従来も貨物輸送が可能だった。道路運送法第82条により「一般乗合旅客自動車運送事業者は、旅客の運送に付随して、少量の郵便物、新聞紙その他の貨物を運送することができる」とされた。ただし、上限重量については通達で350キロ未満とされた。これは軽貨物自動車の積載量を参考とし、貨物運送事業に配慮した数値だ。この350キロ未満については貨物運送事業の許可は不要で、それは今後も変わらない。
しかし、新たな通達によって、バス事業者が貨物自動車運送事業の許可を得れば、350キロの上限は引き上げられ、「(車両乗車定員数−乗車人数)×55キロ」となった。定員50人のバスで乗客が40人の場合、差し引き10人×55キロで、550キロの貨物輸送ができる。高速路線バスの場合、補助席15席を含む合計定員55人のバスなら、補助席に客を乗せない営業方針であれば、常に15人×55キロ、825キロの輸送ができるというわけだ。
JR関東バスの公式サイトを確認したところ、貨物自動車運送事業の許可を得ていないようだ。従って、許可不要な350キロ未満の範囲内で輸送を実施するとみられる。それ以上の貨物がある場合は、増便で対応できるだろう。実証事業によって手応えがあれば、貨物自動車運送事業の許可を取得して貨物輸送事業に本格参入するかもしれない。この方式は乗客減に悩む高速乗合バス事業者にとっても大いに参考になるはずだ。
関連記事
- 着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」
リニア中央新幹線の2027年開業を目指し、JR東海は建設工事を進めている。しかし、静岡県が「待った」をかけた形になっている。これまでの経緯や静岡県の意見書を見ると、リニアに反対しているわけではない。経済問題ではなく「環境問題」だ。 - こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。 - 新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。 - 自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。 - JR東日本が歩んだ「鉄道復権の30年」 次なる変革の“武器”とは?
「鉄道の再生・復権は達成した」と宣言したJR東日本。次のビジョンとして、生活サービス事業に注力する「変革2027」を発表した。鉄道需要の縮小を背景に、Suicaを核とした多角的なビジネスを展開していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.