国鉄と共に消えた「チッキ便」 新たな枠組みで復活させたい:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
サザコーヒーと木内酒造が路線バスを使った商品輸送を始めた。その背景に貨客混載の規制緩和があり、全国的に貨客混載の事例が誕生している。地方鉄道にもチャンスがありそうだ。国鉄時代の「チッキ便」を、新たな枠組みで再出発させる契機になるかもしれない。
列車の貨客混載は「物流総合効率化法」が推進役
鉄道による貨客混載は、2005年に施行された「物流総合効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)」によって推進された。物流総合効率化法は、従来型の「1荷主1輸送業者」によって非効率になった物流を見直し、2事業者以上の連携によって輸送の合理化を図る。このうち、環境負荷を減らし省力化できると認定した事業に対して国が支援を行う。
支援対象となる事業は、倉庫、工場、荷さばき施設を一体化するなどの「輸送網の集約事業」、共同輸送によって個別の低積載車輸送を合同の高積載車にまとめる「輸配送の共同化」、長距離トラックを鉄道や船舶に置き換える「モーダルシフト」の3分野だ。モーダルシフトについては旅客列車よりも貨物列車のほうが適している。しかし、前述した新幹線による高速輸送は旅客列車ならではの付加価値であり、貨客混載に向けたステップといえそうだ。
地ビールやコーヒーは生鮮食品ほど鮮度に敏感な商品ではない。しかし、もしサザコーヒーが「本店で提供しているオリジナルケーキをKITTE丸の内店で」と考えた場合、バスの床下よりも特急「ひたち」「ときわ」が適任といえる。その場合は車内販売もしてほしい、という希望もあるけれど、それはまた別の話だ。
また、貨物列車を持たない地方ローカル鉄道は、モーダルシフトの担い手として旅客列車の貨物輸送がビジネスチャンスになるだろう。大手私鉄の長距離路線も同様だ。通勤ラッシュに対応した長編成の電車が、早朝深夜はガラガラに空いた状態で走っている。もったいない話だ。かつては私鉄も荷物輸送が盛んで、客室を仕切って荷物室にしたほか、荷物専用電車を走らせて新聞などを運んでいた。現在も近畿日本鉄道は「鮮魚列車」として、三重県の漁港に陸揚げされた海の幸を大阪へ運ぶ列車を走らせている。
東海道・山陽新幹線による荷物輸送は過去にも例があった。1981年から2006年まで実施されていた「レールゴー・サービス」だ。主にビジネス書類を対象とし、荷物は駅に持ち込む必要があったけれども、後に集配サービスも行われた。東北・上越新幹線は現在も実施している。
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