国鉄と共に消えた「チッキ便」 新たな枠組みで復活させたい:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
サザコーヒーと木内酒造が路線バスを使った商品輸送を始めた。その背景に貨客混載の規制緩和があり、全国的に貨客混載の事例が誕生している。地方鉄道にもチャンスがありそうだ。国鉄時代の「チッキ便」を、新たな枠組みで再出発させる契機になるかもしれない。
貨客混載の先達「チッキ便」を復活させたい
日本の鉄道には「貨客混載」の前例となる仕組みが2つあった。1つは混合列車といって、同じ列車に客車と貨車の両方を連結した列車だ。運行本数の少ないローカル線で見られた。もう1つは「チッキ便」と呼ばれる小荷物輸送だ。こちらは客車に荷物を載せる。「チッキ」はチケットに由来する愛称で、正確には小荷物切符である。旅客用には「きっぷ」、荷物用は「チッキ」と区別して呼ばれた。
小荷物輸送は手荷物輸送から派生した制度だ。ややこしいけれど、飛行機に例えると、手荷物は「機内持ち込み荷物」で「小荷物」は「預け荷物」である。アメリカのアムトラックなど海外の長距離列車では荷物車両を連結しており、飛行機と同様に大きなトランクは預け、車内には必要最小限のバッグを持ち込むスタイルだ。日本でも同様の制度があって、荷物を別便で送れた。その時に必要な輸送料として小荷物切符を買った。
しかし、小荷物は次第に旅客とは関係なく「駅に荷物を持ち込み、小荷物切符を買って、目的地の駅で降ろしてもらう」という習慣になった。当時の郵便小包は3キロまで。他に長距離で小口の荷物を担う運送屋が少なかったからだ。渋谷駅のシンボル「忠犬ハチ公」も、子犬時代に秋田駅からチッキ便で運ばれてきたらしい。仲代達矢主演の映画『ハチ公物語』(1987年松竹)にそんな場面がある。
チッキ便の需要が拡大するにつれて、客室に仕切られた荷室にとどまらず、荷物専用車両が連結されたほか、荷物専用車両だけを連結した列車も走っていた。こうなると貨物列車に似ているけれども、当時の貨物列車は荷主が貨車を丸ごと借りる必要があった。荷物列車は混載便で、誰でも駅に持ち込めば、小さな荷物も運んでもらえた。大口が貨物、小口が荷物だ。しかし、小口荷物輸送は郵便小包の重量緩和や宅配便の成長によって廃れていく。1987年に国鉄からJRに転換されたとき、チッキ制度は引き継がれなかった。
バスやタクシーの貨客混載は「自動車の効率輸送のための規制緩和」という枠組みだ。鉄道でも「モーダルシフト」の一貫で貨客混載の事例が増えている。今のところ、どれも事例ごとに事業者が異なる。しかし、ドライバー不足とモーダルシフトの観点で考えると、そろそろ鉄道輸送に注目し、かつてのチッキ便のような「旅客列車による貨物輸送制度」を検討してもいいかもしれない。
当然ながらJR貨物とは競合する。チッキ便のライバルだった宅配事業者も、荷物を集約して鉄道コンテナを使う時代だ。しかし、ローカル鉄道の多くは貨物列車が走らず、鉄道貨物の空白地帯だ。それならばいっそ、JR貨物とJR旅客会社と運送会社が協力したらどうか。JR貨物が総括して、旅客列車の一部を借りて運ぶ。駅の窓口はJR旅客会社、駅の集配は運送会社。そこに地方のローカル鉄道会社も連携させよう。せっかく鉄道路線があるなら、トラック輸送を列車に集約しよう。
個人間の輸送については宅配便や郵便が整っている。しかし、350キロ未満程度のB2B輸送なら、現代のITと最新の物流システムを取り入れた、全国規模の新しいチッキ便に活躍の機会がありそうだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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